ヒデキマツバラの猫道Blog

音楽/創作活動のかたわら発見した気づき、笑い、癒し、そして魔法をつづったドラネコ風エッセイ

憑いてきたハイヒール

バスを降りると、のどかな団地が広がっていた。

民家の間からレンコン畑がのぞく。

母と二人で墓参り。

よく晴れた日だった。

 

緩やかに傾斜した坂道を登りきると、

高速道路の高架下トンネルに差し掛かる。

それは100メートルほどの広いトンネルで、

ハイウェイの喧騒なんてどこ吹く風、

静かでひと気もなく、時折、車が通るだけだった。

 

トンネル内の細い歩道を、母のあとに続く。

広い空間に、二人の靴音が響いた。

僕の靴と、母のハイヒール。

 

コツン、コツン、コツン

とりわけハイヒールが良く響く。

 

ほどなく、そこに第三の靴音が加わった。

ハイヒールだ。

女の人らしい。

 

コツツン、コッコツン、ココツン

母のハイヒールと重なって、響き渡る。

 

近い。

僕のすぐ後ろにいる。

 

振り返ってみた。

誰もいない。

 

あれ? 単に音響的な要因なのだろうか?

母のハイヒールが、トンネル内で奇妙に反響して

二重に聞こえてくるのかもしれない。

 

コツツン、コッコツン、ココツン

それにしても、随分と不規則な反響音である。

 

僕は立ち止まってみた。

すると後ろのハイヒールも止まった。

先を行く母の靴音だけが、コツンコツン響く。

 

僕は歩み出した。

すると再び後ろからハイヒールの音がする。

 

僕は2度、3度、立ち止まっては確かめた。

その都度、後ろのハイヒール音は止む。

明らかに、僕のあとを憑いてきてる。

背筋が凍った。

 

「ねぇ…なんか…他の人の靴音しない? ハイヒールの」

思い余って母に尋ねた。

「そう? しないわよ」

僕の幻聴なのだろうか?

 

コツツン、コッコツン、ココツン

やがて、母がつぶやいた。

「あ…聞こえる……」

 

「ね、ちょっと止まってみよ」

母を促し、僕らはトンネルの真ん中で立ち尽くした。

 

すると、なんということであろう。

そのハイヒール音は止まなかったのだ。

コツン、コツン、コツン

トンネル内に響き渡る。

明らかに心霊現象だ。

こんな白昼に。

 

やがてハイヒールが止まった。

トンネルは静けさに包まれた。

 

「行こ」

歩み始めた途端、再びハイヒールがついてくる。

害はないようだが、気味が悪い。

早くここから逃れなければ。

 

やっとの思いで、トンネルを抜け出た。

しかし、ホッとしたのも束の間だった。

 

コツ、コツ、コツ、コツ

明るい陽射しの中に出てもなお、ハイヒールはついてきた。

 

どこまでついてくるのであろう。

墓苑まで、いや今日1日ずっとこんな調子なのか。

観念したその時だった。

 

トンネルの先に、墓苑へ続く急坂がある。

その入り口にお地蔵さんが祀ってある。

不思議なことに、そこを通り過ぎた時、

ハイヒールの音がやんだ。

 

後日、墓苑の管理人さんに事情を伺ってみた。

「やっぱり、出ましたか」

それは若い女性だという。

結婚を目前に、そのトンネルで交通事故に遭い、帰らぬ人に。

以来、婚約者の男性が毎朝のようにお参りに訪れるらしい。

けれど時折、若い男性がトンネルを通りかかると、

あとをついてくることがあるのだという。

そして、お地蔵さんの前まで来ると、

決まってハイヒールの靴音は止むそうだ。

 

 

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