ヒデキマツバラの猫道Blog

サウンドクリエイターの日常に潜む笑い、癒し、気づき、そして魔法をつづったドラネコ風エッセイ

夢の糧(前編)

買い物していた時のことでした。

ワシャワシャと両腕を振り回している女性がひとり。

見ると、僕に向かって満面の笑みを浮かべています。

 

「お兄ちゃん!」

妹の中学時代からの親友でした。

 

再会の喜びを全身で表現するその様子。

まるでクマモンか彦ニャンに遭遇した小さな子さながら。

これで二児の母親だなんて、誰が想像できるでしょう?

 

 

 

ニコニコケラケラ 

その昔、通学途中で我が家へ立ち寄ることから、彼女の1日は始まりました。

僕の妹と一緒に登校しようというわけですが、たいてい妹はまだ支度ができていません。

いつも彼女は玄関で待ちぼうけ。

 

だけど彼女はいつもうれしそうでした。

ニコニコと。

まるで何か素敵なものを待ってるみたいに。

ケラケラと。

 

さて一般的に女の子はお年頃になると、身近な異性、特に父親や兄弟を煙たがるようになるもの。

僕が見てきた例だと、男性家族は無視され、無下に扱われ、噛みつかれ、散々なようです。

ところが人ん家、ことさら親友ん家の兄貴にはそういうわけにもまいりません。

かといって愛想ふりまく筋合いもないのだから、女の子たちには厄介な存在でしょう。

ま、我々も気まずさを察知して、関わり合いにはならないわけですが。

 

でも、そのニコニコでケラケラな彼女は全然違いました。

ちょっとした天然記念物に指定したいほど、誰に対しても屈託がない。

気兼ねなくニコニコケラケラと笑顔でそこにいるのです。

うちのカミナリじいさんからも気に入られてました。

 

なにしろ、お互い高校生になっても妹含め3人で同じ布団に丸まりながらケラケラとテレビゲームで遊んだ仲。

まるで幼なじみか、いとこ同士。

 

そんな気立ての良い彼女には大きな恩があります。

僕たちの父親が亡くなった時、真っ先に駆けつけたのが彼女でした。

そして甲斐甲斐しく台所に入り、妹と一緒に弔問客へのお茶出しを手伝ってくれたのです。

十代の若さでそこまで親身になって献身的に尽くしてくれる子がいるなんて、後にも先にも知りません。

 

ただのんきにニコニコケラケラしているんじゃない。

寒い時に首元を温めてくれるマフラーのような存在。

春風を招き入れるハートをもっている子なのです。

 

 

春風と青空

類は友を呼ぶと言います。

大人になった彼女が結婚相手に選んだのが容姿端麗なナイスガイ。

この保守的な街で銀行勤めしてるとは思えないくらい純粋で、偏見や先入観すらない青空みたいな人。

 

春風に青空。

まさにそんな初々しい新婚カップルでした。

 

さて、普通、結婚したら疎遠になるものです。

まして肝心かなめの妹が上京してしまえば、縁もゆかりも無くなるもの。

しかし彼ら夫婦と我が家の縁は、不思議と途切れることなく続きました。

 

それどころか、夫婦一緒になって僕のコンサートの受付スタッフをしてくれたことまであります。

なにしろ好感度を人の形にしたらこの二人ができあがるほどに好印象。

そんな二人がきめ細やか且つスマートに切り回してくれるわけですよ。

 

受付スタッフの容姿と立ち振る舞いは意外と大事なんです。

ご来場される観客が誰よりも真っ先に目にする人であり、後々まで克明に印象に残っている人。

少なくともその日客席に着いてから開演を待つ間の気分を決定づけてしまう役回りですからね。

そんな大事な場に春風と青空を添えてくれた二人には本当に感謝してます。

 

 

オファーする側・される側

さて、彼の趣味はカクテル作りだと聞いていました。

だから彼らの新居に遊びに行ってご馳走してもらうまで、僕は想像もしていませんでした。

それが趣味の領域を超え、もはや彼の生き甲斐だとは。

 

それを知った僕の頭にピンとひらめくものがありました。

そこでひとつお願いしたのです。

当時僕が主催していたクラブイベントでバーテンダーをしてもらえないかと。

 

ところで、そもそも僕は人に頼み事をするのが苦手なのです。

ノラクラ言い訳しては暗に断りをほのめかしたり勿体ぶる人はもっと苦手です。

「考えとくね」って返された時点で潔く見限るのが、僕の長所だったり短所だったり。

 

先入観で物事をとらえる常人なら、この時の僕のオファーに二の足を踏んでしまっても当然でしょう。

まずは搬入から仕込みの煩雑さ。

個人的にお酒を振舞うことと、不特定多数にサービスを提供することは、根本的に大違いですよね。

それに加えてバーカウンターが常設されていない会場とくれば、設営から考えないといけません。

 

だから、彼が喜びに輝いた顔で即座に僕の申し出を快諾してくれたことに、大いに感銘を受けたのです。

それが彼の決断力と実行力を目の当たりにした最初の出来事でした。

 

  

お人好しなバーテンダーたち

DJをしながら、僕はちらちらとバーカウンターをチェック。

もう5〜6回やってきたイベントなのに、その日は何かが違います。

 

彼は水を得た魚になって、嬉々としてバーを切り回していました。

彼女も一緒にバーカウンターに入ってアシストしてくれています。

そこには好感度と清潔感と喜びがみなぎっていました。

 

特に印象に残ったのは、ドリンクを注文しているお客さんたちがとても打ち解けてくつろいでいた様子であったこと。

きっとバーカウンターで春風と青空をいただいていたのでしょう。

イベントは大盛況でした。

 

撤収後、スタッフ一同で打ち上げの席へ。

歌って食べて宴もたけなわ、そろそろお開きという頃あいを見計らい、二人を外に呼び出した僕は少しばかり困り果てていました。

二人ともカクテルの材料に要した経費しか受け取ってくれないのです。

打ち合わせ段階から報酬の話を切り出すたびに、冗談めかしてやんわり話を納めていた二人。

 

「あんな素敵なイベントでやらせてもらえたのに、その上お兄ちゃんからお礼なんていただけんよ」

「僕たちのこと信じてバー周りすべて任せてもらえたことがすごくうれしくて、それでもう十分幸せなんです」

そういって僕を説得にかかる二人の腕になんとか無事に謝礼を押しこめることができ、その夜は安心して家路に着きました。

 

どこまでもお人好しな二人。

あんな純粋な夫婦って見たことない。

タダで人の善意が利用し尽くされるこの物質至上社会にあって、あの二人は本当に天然記念物だ。

 

春風と青空を提供してくれるバーなんて世界のどこにある?

春風と青空にそれ相応の報酬が支払える億万長者なんて世界のどこにいる?

春風と青空を友にもつ僕みたいな幸せ者が世界のどこにいる? 

 

後日、彼女からお礼状が届きました。

そこには文字をまとった真心がありました。

 

「彼はバーテンダーになることが長年の夢だったんです。

 その夢をお兄ちゃんに叶えてもらって、夫婦共々心の底から感謝しています。」

 

お礼を言いたいのはこっちの方なのに。

彼の夢を叶えた恩人にされてしまった。

あぁ、なんてできた夫婦なんだろう。

 

そんな感動の余韻も冷めやらぬある日のこと。

彼の決断力と実行力を思い知る第二の出来事が起こりました。

僕はたちまち責任感に襲われたのでした。

(続く)

 

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出典/thebuzzingstory.com

  

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ヒデキマツバラ LIVE 2018 
Date: 2018-06-03(Sun) 14:30 Start
Place: エソール広島ホール
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