ヒデキマツバラの猫道Blog

ドラネコ視点の少し風変わりな猫道(キャットウォーク)ブログ

天空へと続く道 Stairway to Heaven 〜看病日記より〜

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写真/ライブ「エイス・ワンダー」より



母の看病を始めて55日。

家のこと、そして経営者として母が抱えてた音楽ビジネスの引き継ぎに全力投球の日々である。

 

世の中には、働きながら親の介護をしてる方々が大勢いる。

それに職場のトップが急病で倒れたその日から、仕事を丸ごと引き継がなくてはならない方々もいることだろう。

 

だから大変な思いをしてるのは僕一人だけじゃない。

 

幸いなことに、僕は物事のプラス面を見つけるのが好きだ。

それに思いがけないドラマは、ありきたりな日常の中にある。

たとえば食材の買い出しひとつとっても。

 

 

献立道中

冬の陽射しがこぼれる並木道。

光だけは、もう春色を帯びている。

 

1日おきの買い出し。

散歩の一環だと思えば、足取りは軽い。

 

2月の街の片隅で営みを続ける自然を愛でながら、頭の中にあるのは献立のこと。 

2日で6食分。

さて今日はどんな食材を買いそろえよう。

 

根菜類はいろいろ冷蔵庫に残ってるから、さしあたり葉物野菜。

肉はビタミン豊富な豚肉だね。食べやすいロース肉で。

魚介類は何がいいだろ? イワシの蒲焼は美味だったな。店先に並んでるものを見て決めるに限る。

そうそう、海藻を忘れちゃいけない。昆布とワカメにひじき。

元気と浄化に欠かせない生姜とニンニクもね。

あと、炒りゴマも常備しときたい。

あ、山芋とかいいかも。精をつけてもらわなきゃね。

フルーツはパワーの源バナナ、それに万病予防のりんごも買いだね。

 

すっかり食が細くなってる母。

どうやって栄養をつけたらいいか悩みどころ。

ことに白米を食べたがらない。

どうしたもんかなぁ。

ご飯が進むものといえば、、、

そう、お漬物!

 

こんな調子で、買い出し道中はたちまち過ぎる。

 

横断歩道と陸橋

それは気温が緩んだある日のことだった。

顔を覗かせた太陽と一緒に歩きたい気分だった。

 

少し遠くのスーパーマーケットまで足を伸ばしてみようか。

太陽に尋ねてみる。

 

こうして僕は川沿いの並木道を下って行った。

キラキラとまばゆい光を川面に散らす太陽を友として。

 

今日はいいことあるよ。

太陽が告げていた。

 

やがて見えてきたのは、スーパーマーケット前の交差点。

かつて子供時代、この辺でよく遊んでいたものだ。

 

その交差点では、路面電車と片側一車線半ずつの道路が通っている。

人間に例えるとするなら、高校生程度の交差点といったところか。

 

そんなささやかな交差点には、横断歩道と陸橋まで備わっている。

ずいぶん過保護な交差点である。

 

さて、横断歩道と陸橋。

あなたならどちらを選ぶだろうか?

 

僕は迷わず陸橋を選んだ。

 

陸橋が好きだ。

それは空へと続く道だから。

 

階段を昇る視界の先に広がる真っ青な空。

そんな空との出会いが好きだ。

 

道を歩きながらでも、空を見上げることはできよう。

でもね、ずっと見上げっぱなしで歩くのは、なんだか体裁が悪い。

 

その点、陸橋ならずっと天を見上げていられる。

そして昇った分だけ、空に近づける。

 

だから僕は陸橋が好きだ。

 

愛情の時代

僕は一段ずつ陸橋を登っていった。

建物に覆い尽くされた地上世界を後にして。

ぬくもりを失った地上世界を背にして。

 

昔とちっとも変わらないその陸橋を昇っていると、思い出が蘇る。

僕は人を愛さずにはいられない性質の子供だった。

家族親戚はもちろん、顔見知りの大人たちのことが大好きだった。

ご近所さんともなれば家族同然に愛した。

顔を見かけるだけで嬉しくて、いつも元気に挨拶と笑顔を送っていたものである。

 

毎日さっそうと自転車をこいで走る、裏の背高ノッポおばさん。

コワモテだけど僕が運転するおもちゃの車に油をさしてくれた、角のランニングシャツおじさん。

いつも僕が門ごしにおしゃべりを交わしている秋田犬を飼っている気のいいおばあさん。

ほかにもパン屋のおばちゃん、魚屋のおじちゃん、お豆腐屋のおばあさん、おまけをくれる薬屋のおばさん、挙げていったらきりがない。

 

出会う人たちみんなに、僕はかけがえない愛情と絆を感じた。

そして誰とも笑顔が共通言語だった。

思えば、なんて情の豊かな時代だったことだろう。

 

そうした気のおけない豊かな心の交流は、生活が劇的に豊かに便利になった今では、かえって望むべくもない。

核家族社会の現代、我が子にGPS機能付携帯を持たせる親たちの危機意識、そして子供たちの側の警戒心には並々ならぬものがある。

顔見知りの子でさえ、こちらから挨拶してやっと上目遣いに礼儀上、返答する程度。

中には警戒心とか内気だとかではなく、どこかに口と礼儀を落としてきたのかな?と思うほどスカしてシカトする子だっている。

いや、別にそれは子供に限った話ではないのだけれど。

彼らの意識下には「他人を見たら加害者だとみなせ」という信仰すらあるように思えてならない。

 

不思議なことに、見も知らぬ他人とネット上でたやすく関われる時代になるほど、実社会で他人との関係が希薄になっていく気がするのはなぜだろう?

その場しのぎで関係を持ったり絶ったりできるネットは、非常に都合がいいのかもしれない。

刹那の虚栄を渡り歩いている人々にとっては。

 

刹那はやがて永遠を紡ぎだす。

だから僕は実りある刹那を探す。

 

愛情に満ちたものを。

自由になれる場所を。

 

陸橋は僕にとってまさにそういう場なのだ。

 

陸橋小僧さん

数メートル分、大空へと近づいて、深呼吸。

魂の中に聖なる気がコクンコクンと注がれていく。

さながら古代メソポタミア神話の天空神エンリルからの恵み。

 

自由な気分を味わったところで、僕はふと気づいた。

陸橋の反対側から男の子が一人、こちらへ渡ってくることに。

 

一見したところ、ほぼ普通の小学生の男の子に見える。

「ほぼ」と書いたのは、どこか他の子と違うものを感じたからである。

 

具体的にどこか?と問われたら、その子のヘアスタイルだろう。

今の日本男児にしては珍しく、5センチくらいの長さできれいに切りそろえられていた。

まるで昔話の中から出てきたお寺の小僧さん。

 

目に見える違いだけでなく、目に見えない違いにも気づいた。

その子の雰囲気にある、何か独特なもの。

一体それはなんだろう?

そんなことを考えながら、僕は文字通り上の空で、遠い空を仰ぎながら歩みを進めた。

 

思いもかけないことが起きたのは、その時である。

陸橋のちょうど真ん中で、その子とすれ違いざまのこと。

 

「こんにちは!」

突如、見知らぬその子が挨拶してきたのだ。

子供らしい純粋な声をリンリンと響かせながら。

 

慌てて僕も「こんにちは!」と返した。

あまりに咄嗟で、その子と目を合わせる間も無かったけれど。

 

あぁ、なんてこと。

よもや今の時代、こんなことがあるなんて。

僕は胸の底から感激してしまった。

あんなに自発的に挨拶できる子供にお目にかかったのは初めて。

 

きっと天界から遣わされた子に違いない。

それでわかったぞ、あの子が誰に似てるか。

お地蔵様なのだ。

 

お漬物売り場で

この2ヶ月ずっと母の病状と向かい合ってきた。

お医者様に診ていただいてるとはいえ、途方に暮れたことが一度や二度ならずあった。

終わりのない迷路に迷い込んだかのような日々。

 知らず知らずのうち、僕の心は打ち砕かれ、もろくなっていたのかもしれない。

 

だからなおさら、あの子の「こんにちは」は深く心に染みいった。

まるで「毎日よく頑張ってるね」「大丈夫だよ」「見守ってるからね」と言ってるように聞こえた。

 

礼儀正しいあの子からすれば、いつもの元気な日常の挨拶だったのかもしれない。

でもそれは僕に大きな励みと深い慰めをもたらした。

 

僕の心は、まるで鐘のようだった。

ゴォーンと鳴り響いて、ずっと余韻が残って止まらなかった。

 

スーパーマーケットの中に入っても、僕は感動に打ち震えていた。 

じんわりと溢れてくる涙を、幾度も幾度も必死でこらえた。

だってスーパーのど真ん中で、いい歳した大の男が、高菜のお漬物を手にとりながら涙をボロボロこぼすわけにはいかなかったから(笑)

 

 

<ご挨拶>
連日お見舞いのお便りやメールをありがとうございます。
今のところ、返事を要する仕事関係のメールから最優先に返しておりまして、お便りや私的なメールにはまだ返信できていません。
申し訳ありませんが、いずれ必ずお返事しますのでご容赦ください。
このブログもひと月前から合間合間に書き綴ってきたもので、今日やっと投稿できました。
寒波続きの毎日ですので、皆様どうぞお体にお気をつけ下さいね。

 

 

最も暗いのは夜明け前。

やがて夜は明ける。


DAYBREAKER ヒデキマツバラ by Hideki Matsubara

 

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