ヒデキマツバラの猫道Blog

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知られざるクラシック名曲「エニグマ変奏曲」〜5/5コンサート音楽制作Part4(前編)〜

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ジャンルを問わず、イギリス音楽が大好きです。

他のどの国よりも、イギリスから生まれる音楽に惹かれてなりません。

そこには英国ならではの高貴なる品格と、ある種の魔力が秘められているから。

 

 

エルガーの謎かけ

今日ご紹介する作品は、130年前に作られた「エニグマ変奏曲」です。

「威風堂々」で名高いイギリス人作曲家エルガーによるクラシック作品になります。

 

 「エニグマ」とはギリシア語で「謎かけ/謎解き」の意。

主題と14の変奏曲で構成されており、最も有名なのが第9変奏「ニムロッド」です。

 


Edward Elgar - Nimrod

 

このクラッシー(第一級品的)な美と壮麗な響き!

これぞイギリスの地でしか誕生し得ない音楽ですね。

 

胸を焦がすほど美しい作品にもかかわらず、我が国では耳にする機会がありません。

クラシック音楽ファンの中にもご存知ない方が意外といたり。

なぜなのでしょう?

まさしく謎です(笑) 

 

内助の功

この作品の成り立ちには、ちょっとした夫婦愛エピソードがあります。

 

それはエルガーが40代の頃。

まだ作曲家として名を成せずにいた彼は、一介の音楽教師にすぎませんでした。

 

ある日、彼がピアノに向かって即興演奏をしていた時のことです。

そばで聞いていた妻キャロライン・アリスがその旋律に心奪われました。

「もう一度弾いて」彼女は頼みました。

エルガーは妻を喜ばせようとして、そのメロディーを弾きながら次々と形を変えて即興的に変奏していきました。

 

そうして誕生したエニグマ変奏曲は、たちまち評判を呼びました。

名指揮者ハンス・リヒターが演奏会で取り上げるに至り、ついにエルガーは作曲家として認められるようになったのです。

 

即興演奏はいわゆるアドリブですから、妻キャロラインの賛辞がなければ、この作品はその場限りで失われ、後世に残らなかったでしょう。 

他人の賛辞がきっかけで日の目を見ることになった作品は、クラシック/ポップス問わず多いもの。

 

というのも、作曲者からすれば自作品は主観の塊なので、客観的に良し悪しを判断しづらいのです。

旋律を残すべきか、葬るべきか。

そんな葛藤の中にあって「いいね」されると、昔も今も作曲家は大いに自信を持つものなのです。

 

特に作曲家の妻という立場は、とても重要なポジションですね。

なぜなら

・作曲家である夫の才能を、誰よりもよく熟知しているから

・客観的な視点で、作品を評価することができるから

・作曲家に直接励ましと勇気を与えることのできる数少ない存在であるから

 

エニグマ変奏曲」はエルガーの才能のみならず、妻キャロラインの内助の功なしには存在しえなかったのです。

僕も嫁さん選びは慎重にするとしましょう(笑)

 

才女ミリアム・ストックリー 

エルガーが作曲家として名声を得た記念碑的作品「エニグマ変奏曲」

前述通り、日本では演奏会で取り上げられる機会も、BGMで耳にする機会もありません。

僕がこの作品を初めて知ったのも、クラシック方面からではなく、ポップ系シンガーによる歌ものカバーからでした。

 

そのアーティストとは、ミリアム・ストックリー。 

多種多様な音楽ユニットのボーカリストとして活躍し、とりわけニューエイジ系ユニット、アディエマスで、日本を含めた世界的な成功を収めました。

バックコーラスとしても、クイーンのフレディー・マーキュリーや、カイリー・ミノーグらPWLレーベル作品の大半に関わり、長年にわたって裏方でUKミュージックシーンを支えてきた立役者です。

 

そんな彼女が発表した3枚目のソロアルバムに収録されたのが「人生の輝き 〜ニムロッド〜」

イタリア語で書き下ろされた歌詞で歌っています。

 


Quanta Vita - Nimrod

 

感情を抑えつつもハートウォーミングで清らかな歌声。

まるで鳥になって心地よく飛んでるように歌ってますね。

 

でもこの歌、実はすさまじい難易度なのです!

あなたも試しに歌ってみてください。

高低差の激しい5度〜7度の音程が延々と続いていき、ピークではみるみるうちに2オクターブ上の音域まで駆け上がっていきます!

深海の底にいたかと思えば、次は山頂に移ったかのような、歌声の瞬間移動!

 

それをミリアムは自由自在にサラリと歌いこなしているんです。

驚異的な歌唱テクニックですね。

 

彼女についてはあまりにも書きたいことがありすぎるので、また別の機会に譲るとしましょう^^

 

完璧なプログラムの隙を探せ

ミリアムのカバーに感激して、すっかりエニグマ変奏曲の虜になった僕。

大好きなこの「ニムロッド」をいつかシンセサイザーで演奏したい。

そう願ってやみませんでした。

 

この曲を奏するにふさわしい舞台コンセプトとめぐり合う機会を待ち続けて12年!

ついに願いが叶ったのが、先日のプリンスホテル公演でした。

 

公演では当初、病床の母がピアノで出演できることになった場合を想定して、2曲ほどプログラムに空き枠を設けていました。

春先まで待ってみたものの断念。

さて、どうやって2曲分を穴埋めをしようかと。

 

その時点で既定曲のプログラム順はほぼ固まっていました。

ショー全体を3つのパートで構成して、キャストの動線や小道具の転換等まで考慮した緻密で理想的なプログラムでした。

下手に途中で別の曲を入れてしまうと、全体のバランスや流れが損なわれかねません。

 

完璧なプログラムの隙をついて曲目を増やすには、どうすべきか?

 

そこで着目したのがコンサートのオープニング曲「スカボロー・フェア」でした。

以前書いた通り、王朝風の豪華ドレスで着飾ったキャスト総出演の見せ場です。 

hidekimatsubara.hatenablog.com

 

このオープニング曲の前に、何か序曲めいた導入部を置いたらどうだろう?

そんなアイディアがひらめきました。

 

それだと全体の流れを阻害することもありません。

むしろスカボロー・フェアの演出がさらに映えて印象づけられることでしょう。

ランチタイムコンサートという性質上、食事時間からショータイムへ移行するクッションとなり、お客様の胃腸の消化にとっても良さそうです(笑)

 

では、どんな曲が適しているのか?

ショータイムの始まりを予感させる曲。

リズミカルな要素がなくて、均質の取れた曲。

格式ある会場の雰囲気にふさわしい格調高い曲。

スカボロー・フェアへと自然に続いていきそうな曲。

そういえばまだクラシック作品からは1曲も選曲していなかった。

 

そうやって連想ゲーム式に導き出された答え。

「今こそ、エニグマ変奏曲だ!」 

(後編に続く)

 

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