アンドロメダ座が空高く昇る季節になりました。
今日はアンドロメダ神話を想起させる、世にも美しいクラブミュージックをご紹介しましょう。
歌詞/対訳
Matt Darey Pres. Urban Astronauts feat. Kate Louise Smith - See The Sun (Aurosonic Remix) FULL HD
SEE THE SUN (Aurosonic Remix)
by MATT DAREY pres. URBAN ASTRONAUTS feat. KATE LOUISE SMITH
Still is the water
Where my fears are bound
Watching me fall like a leaf
That was so brutal
Such a simple decision
When will I be released
You can close your eyes
But there is no illusion
Draw the line
Watch the river run dry
Now I see the sun will fade
Now I feel the choice you made
Now I hear the voice aloud and calling out behind me
Now I see the sun
Now I see the sun
Static and silence
Where my fears are bound
Watching me close and release
How do you let go
Of such a simple solution
Will it bring you release
You can close your eyes
But there is no illusion
Draw the line
Watch the river run dry
Now I see the sun will fade
Now I feel the choice you made
Now I hear the voice aloud and calling out behind me
Now I see the sun
Now I see the sun
静かなること 海の如し
一路 その海へ向かうは 我が恐れ
見るがいい 一葉の如く 堕ちる私を
なんて冷酷な仕打ち
そんなごく単純に決断を下すなんて
我が身が解放されるのは いつ?
目を閉じてみるがいい
でも幻想なんてない
一線を画しなさい
見るがいい 河が干上がる様を
今にして悟った いずれ陽は翳りゆくと
今にして感じるのは あなたの下した決断
今にして耳にするのは 背後から叫ぶ声
今にして 太陽を目にする
今にして それが太陽だったのだと知る私
私が恐れているもの
それは避けようのない静寂と無言
見るがいい 閉じては解き放たれる私を
そんなごく単純な解決策で
あなたはどうやって手放すの?
それであなたに自由がもたらされるとでも?
対訳/ヒデキマツバラ
満天の星空
大好評だったハウスに続き、やっとトランスカテゴリーを設けました。
その栄えある第1回目にご紹介するのは、オーロソニックがリミックスしたマット・ダレイの「See The Sun」
僕の選ぶオールタイムベストな一作です。
満天の星空を見上げていると、涙がこぼれませんか?
切なさと多幸感が両面から押し寄せてきて。
この楽曲を聴いてるとそんな気分になります。
深宇宙のロマンを奏でた、美しく切ないトランスサウンド。
渦巻く銀河のように流麗なシンセパッドと、明滅を繰り返す規則的なシンセシークエンスが、きらめく星屑のごとく降り注いできます。
そこに現れるケイト・ルイーズ・スミスのえも言われぬ麗しきボーカル。
その美しさときたら、船乗りを惹きつけて難破させるというギリシア神話の精霊セイレーンのよう。
けがれなき透明感と、感情を排した知性を感じさせる彼女のボーカルこそ、まさに僕が理想と崇める歌声です。
難解な歌詞もどことなく現実離れしており、まさに神話のように格調高く、ドラマティックに聴かせます。
訳すのになかなか苦労しましたが^^;
アンドロメダの物語
もつれた恋愛感情を歌った歌詞。
そこからなぜかアンドロメダの物語が浮かんでくるのは僕だけでしょうか?
断崖絶壁に縛られ、怪物クジラの生贄にされたアンドロメダ姫のことを。
それはエチオピアの王妃カシオペアが、娘アンドロメダの美貌を鼻にかけたことから始まりました。
娘の美しさは、海の妖精ニンフたちですら叶うまい、と。
それに怒った海神ポセイドンは、怪物クジラをエチオピアの海岸に出没させます。
怪物クジラは度重なる大津波を起こしては、人々を襲い、街を壊滅させました。
困りはてた国王の元に神託が下ります。
「海神の怒りを鎮めるには、娘アンドロメダを怪物クジラの生贄にしなければならぬ」と。
こうして生贄となったアンドロメダに、あわや怪物クジラが襲いかかろうとしたその時でした。
空からペガサスに乗って降りてきたのは、勇士ペルセウス。
事の次第を飲み込んだ彼は、退治してきたばかりのメドゥーサの首をつきつけ、怪物クジラを岩に変えてしまいます。
こうしてアンドロメダ姫の命は救われたのでした。
このアンドロメダの物語と、そこに添えられた美しい挿絵をきっかけに、10才だった僕は宇宙好きになったんですよ。
太陽を目にしろ
さて話を「See The Sun」に戻しましょう。
本作には英語ならではの二面的なカラクリがあります。
それはタイトルと歌詞との違いです。
タイトルだけ見ると「See The Sun(太陽を目にしろ)」
なかなか思い切った表現ですよね。
勇気を奮い起こして「光を見なさい」という力強いメッセージに聞こえます。
ところが曲中では意味合いがまったく異なってきます。
Now I see the sun will fade(陽はいずれ陰ってゆくものだと、今にして悟った私)
諦めどころか絶望感すら漂ってますね。
「see」には「見る、目に映る」の他に「わかる、知る、悟る」という意味があります。
後者の場合、今まで自分が抱いていた意見や想いと異なる感触を得た時「Now I see(今になってわかった)」というニュアンスでよく使われます。
本作の歌詞で「太陽」が象徴しているもの、それは「愛する人への想い」
その想いが冷めていったことが切なく歌われているわけです。
「一葉のごとく堕ちる私」「河が干上がっていくのを見るがいい」という歌詞に至っては「私が踏みにじられ傷ついてズタズタボロボロになるのを見るがいいわ」っていう自虐的なニュアンスなんですよね。。。
そこには「自分が傷つく姿を見せることで相手に復讐する」という女性ならではの情念が感じ取れて、男の僕としては空恐ろしい気分になりますが(笑)
そこらへん、さすがシェイクスピアの国から生まれた歌だなぁと^^;
See the sunという言葉がもつ二面性。
それがこの楽曲に宿る光と影を印象的に浮かび上がらせているのかもしれません。
神話の縮図
この歌に込められたドラマをさらに掘り下げていきましょう。
そこに描かれているのは、終わってしまった愛情関係にありながら、想いを断ち切れずにいる主人公のジレンマ。
ところが面白いことに、この歌はそれだけに終始せず、入れ子細工のような二重構造になっています。
表面上は、傷ついた女性の私的な情念を歌っているように読み取れます。
しかし俯瞰的に見ていくと、そこには「諸行無常」「万物流転」「栄枯盛衰」という本質的なテーマが浮かび上がってくるのです!
その深さがたまらない!
そうした深みが生まれるのも、太陽、海、河などスケールの大きな象徴を歌詞の中に配置したからこそ。
「あなたへの愛情が冷めた」「傷ついた私を見て」といったありきたりなフレーズを「陽が陰った」「河が干上がるのをご覧」と言い換えることによって、時代性を超えた普遍的なエレジー(哀歌)へと昇華させているのです。
そんな知的な試みが、人工的な打ち込みサウンドと、トランスならではの宇宙観に裏打ちされ、神話的なドラマ性を生み出しているわけですね!
唸らずにはいられない深さです。
トランスミュージックの真髄とは、宇宙や神話の縮図。
僕はそこに惹かれてたまらないんです。
トランスに出会えたことで、自分もそれらを強く意識しながら日々音楽制作に臨めるようになりました。
続いては、本作にたずさわっているアーティストをご紹介しましょう。
アーティスト紹介
Matt Darey(マット・ダレイ)
90年代初頭からUKダンスミュージックで活躍している英国人DJ/音楽プロデューサー。リミキサーとしてクラブシーンに登場し、品格と勢いを兼ね備えた怒涛のフロアサウンドで数々の名作リミックスを手がける。その後ユーフォリック(多幸感あふれる)トランス路線へとシフト、イギリス中の有力ダンスレーベルから多数の名義でソロ作品をリリース、クラブフィールドのみならず全英ナショナルを席巻して一世を風靡。自身のレーベルを設立以後メジャーシーンから一線を置き、クリエイティブで耽美なトランス作品の制作に専心している。
Urban Astronauts(アーバン・アストロノーツ)
「都市型宇宙飛行士」の意。2000年代後半からマット・ダレイがスタートさせた新たなプロジェクト名。ロックサウンドを標榜した非ダンス路線を貫く。クリスティー・サースク、アラバマ3、サンスクリーム、クリスチャン・バーン等、作品ごとに多様なボーカリストをゲストに迎える。当初アルバムリリースがアナウンスされたが、現状5作品のシングルリリースにとどまっている。
ちなみにこちらが本作のオリジナルとなったロックバージョンです。
Matt Darey feat. Kate Louise Smith - See The Sun (Original Mix)
Kate Louise Smith(ケイト・ルイーズ・スミス)
2000年代半ばメジャーシーンに登場した英国人女性ボーカリスト。クラブ系ボーカリストとしてファンキーハウス作品に客演するほか、ソロ名義ではフォーキッシュなUKトラッド作品を発表。本作をきっかけにトランス/プログレッシブ系へ進出。パンチの効いた艶やかな歌声から透明感のある爽やかな歌声まで変幻自在なボーカルパフォーマンスを誇る。表舞台よりも裏方での活動に比重を置き、ソングライター、プロデューサー、音楽マネージャーとして活動する傍ら、ロンドンスタイル大学共同設立者兼ディレクターとしても活躍中。
Aurosonic(オーロソニック)
ロシア出身のトランス/プログレッシブ系プロデューサーデュオ。本作リミックスを手がけたことで一躍トランス界の超新星として頭角を現して以来リミックスのオファーが多数舞い込む売れっ子に。プログレッシブかつインテリジェントなトランスサウンドをベースにした耽美な作風が特徴。
未知数の創造性
浮き沈みの激しいUK音楽シーンで30年近く活動を続けてきたベテランDJマット・ダレイ。
トランス界では「神」とまで形容された彼が、本作の制作にあたって、キャリアをスターさせてそれほど間がないような名もなきボーカリストとリミキサーを起用した、その懐の大きさに僕はまず胸打たれました。
昨今、著名アーティスト同士がコラボして話題性ばかりが優先するも、肝心の楽曲はアレレ?なんてよくある話。
僕らが求めてるのは、話題性ではなく創造性!
僕らが聴きたいのは、ひたすらにクリエイティブで魂が揺さぶられるサウンド!
その点、未知数な音楽家たちと創造性を刺激し合いながら、世にも美しい楽曲へと結実させた本作を聴き込むたびに、同じクリエイター畑の者として共感のあまり胸が熱くなります。
時代のトレンドを追う代わりに、ひたすら緻密に美しい作品作りと創造性にこだわり続けるクリエイター、マット・ダレイ。
そんな彼こそ僕のお手本です!
■ ヒデキマツバラLIVE動画 ■
全面すさまじく赤一色に染まったオリジナル曲「チェックメイト!」
CHECKMATE! ヒデキマツバラ by Hideki Matsubara
DJヒデキマツバラ presents カクテルパーティー
SCORPIO RISING
〜スコーピオ・ライジング〜
【Date】2019-11-17(Sun)14:00 - 16:00
【Place】Miminowa Music Studio
【Admission】 ¥2750 (with Special Cocktails & Sweets)
【Performance】DJヒデキマツバラ、MAYUMI、コンスタンツェ、SAM
【Reservation】DJヒデくん 又は info@miminowa.com までご連絡ください(11/12予約〆切)