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HYMNワールドツアーに秘められた物語 - Out of the Darkness - 〜サラ・ブライトマンHYMNツアー公演(第六夜)〜

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今日はサラ・ブライトマンの最新ツアー「HYMNワールドツアー」について、さらにディープな視点から書いていきます。

 

 

サラは歌手にあらず

古今東西、美しい歌声の持ち主はクラシックやポップス/ロック問わず山ほどいます。

でもサラが際立ってユニークな点は、ただ単に歌を上手に歌って拍手をもらうだけのシンガーではないところです。

 

思うに、サラは単に歌声を聴かせるために歌っているのではなく、自身の音楽世界を表現するための手段として歌っているような気がするのです。

そういう意味で、彼女はシンガーというよりも、芸術家/クリエイター気質です。

そこに僕は魅了され、23年間もファンを続けているわけですね。

 

彼女のアルバムやコンサートを通して聴くと、そこにある種のストーリーが浮かび上がります。

まるで1本の映画を見ているかのような、視覚的で絵画のような壮大なドラマがそこにあります。

 

事実、サラは大の映画好きで、そのことが彼女のアルバム制作やワールドツアーの選曲に反映されています。

すべては元エニグマのフランク・ピーターソンをプロデューサーに迎えた1993年作のアルバム「ダイブ」が始まりでした。

以来、彼女はシンガーと見せかけながら、アルバム制作やツアー舞台を通して幾つもの大作映画のような創造物をクリエイトしてきたのです!

 

秘められた物語

この度のHYMNツアーでも、そうしたことを踏まえながら僕は鑑賞していました。

そして驚くべき解釈へと行き着きました。

 

結論から言いましょう。

HYMNツアーに秘められた物語、それは暗黒の地から光あふれる天界へ至るまでの「天路歴程」を描いているのです!

 

天路歴程」とはイギリスの宗教作家バニヤンが1600年代後半に書いた寓意物語のこと。

主人公のクリスチャンは妻子を捨て、重い荷物を背負って「破滅の街」から巡礼に出発します。

そして「死の影の谷」や「虚栄の市」などを経て、様々な苦難を克服しながら「天都」に到達するまでの道程が描かれています。

欧米ではスタンダードな題材で、信仰深い家庭に育った人なら知ってる物語。

イギリス生まれのサラなら確実になじみ深いことでしょう。

ちなみに「天路歴程」をモチーフにしたことでよく知られているのが、アメリカの少女小説若草物語」で、作品の中でしばしば引き合いに出されていますね。

 

暗闇から光へ

では実際にHYMNツアーのセットリストと照らし合わせながら、コンサートの前半部分を紐解いていきましょう。

第1部はいきなりからこの歌からスタートしました。

 

M02 「Fleurs Du Mal 嘆きの天使

「一緒に逃げても悪の花から逃れられない」

「わが魂の黒い悪魔」

「心に潜む悪の花」

「悪の花のために人は生き、祈りを捧げる」

絶望的な歌詞です。。。

サラの楽曲の中で最もヘヴィー&ダークな歌。


M03 「Stranger In Paradise ストレンジャー・イン・パラダイス」

「私は楽園の異邦人」

「楽園には危険が待ち受けている」

「熱烈な祈り」

「私が渇望するすべてのもの」

「暗い絶望をもたらす」

 ボロディンの「ダッタン人の踊り」を原曲にしたクラシカルで耽美な歌ながら、意外と歌詞の内容は陰影に満ちています。

 

M04「Carpe Diem カルペ・ディエム」

「栄光と苦悩に満ちたこの瞬間」

「果てなき不毛の地を焼き尽くし」

「私たちはか弱く、この命は儚い」

苦難と葛藤がにじみ出ています。。。

 

M06 「Anytime, Anywhere エニィタイム・エニィウェア」

 「道という道は変わり果て」

「かつて私の街だったここ、今では全く知らない街になってしまった」

「私は故郷を失ったよそ者でしかない」

「多くの年月が過ぎ去り人生も変わってしまった」

これぞまさしく「天路歴程」の中の「破滅の街」ではないでしょうか!!!

アルビノーニアダージョ」をベースに、深き哀愁の響きがドラマ性を掻き立てます。

 

M07 「Gia Nel Seno すでに胸の中で(ルクレツィアの物語)」

「胸の中でこの短剣が苦しい務めを果たし始めた」

「間近に迫った死の苦しみ」 

 麗しき苦しみとでも表現したらいいのか。

ヘンデルカンタータ「ルクレツィア」をベースにした極上耽美サウンドと、苦痛に満ちた歌詞とのギャップが、流血ものの歴史ドラマを浮かび上がらせます。

ここから「天路歴程」での「死の影の谷」に差し掛かっていくのでは!?

 

M08 「Hijo De La Luna 月の息子」

「満月が答えた、見返りに彼との最初の子を譲ってほしいと」

「ナイフを握りしめ妻を問い詰めた、これは誰の子だ!俺を裏切ったな!夫は妻を殴り殺し、川の小舟に子供を置き去りにした」

これもサラの美声にばかり耳がいってしまいますが、歌詞の内容は痛烈です。。。

天路歴程」で主人公が妻子を捨ててしまう部分とリンクしているのでは、と僕は解釈しています。

 

M10 「Misere Mei ミゼレ・メイ」

「私の咎(とが)をすべて洗い流し、わが罪から私を清めてください」

クワイヤーのみの間奏曲。この歌詞は極めつけですね。

もしかするとM08「月の息子」で妻子を殺した夫の心境を歌っているのかも、と深読みしながら一人悦に入ってます(笑)

 

M11 「Figlio Perduto フィリオ・ペルドゥート」

「夜が迫り来る 父と子は連れ立つ」

「突然恐怖のあまり、子は震え出す」

「あぁ父よ、小妖精の王が僕に触れてきては苛む」

「子は目をつぶり、動かなくなり、さらわれてしまう」

この曲ではベートーベン「交響曲第7番 第2楽章」にのって、悪魔が父子の絆を裂きます。

 

M12 「Who Wants To Live Forever リヴ・フォーエヴァ

「私たちにはもう時間が残されていない」

「私たちの夢を実現してくれるものもいつの間にか消えてしまう」

「永遠に生き続けたいと思う者がいるのだろうか」

クィーンのギタリスト、ブライアン・メイが、フレディー・マーキュリーの死を前に書き上げた傑作。

こうしてみると、つくづく今回のコンサート前半部分は暗闇と死に覆われていますね。

 

M14 「Ebben? Ne Andro Lontana さようなら、ふるさとの家よ」

「遠くに行ってしまわねばなりません」

「希望もなく悲しみと悩みに包まれて」

「もう決して帰ることもなく目にすることもない我が家」

家族との別離を歌った作品。カタラーニのオペラ「ワリー」より。

 

M15 「Miracle ミラク

「恐れを打ち砕け」

「我が罪から自由になるために」

「愛がやってきて、あなたの苦しみに打ち勝つだろう」

絶望の淵から始まった第1部、その最後を締めくくるこの曲で、ついに苦難を克服して「天の都」へといたるのでしょう!

コンサート第2部は、一転して天界の光と栄光、救いが待ち受けています。

 

いつもならコンサート第1部を締めるのは、サラ本人も大好きなプッチーニの「ネッスン・ドルマ」がお約束でした。

が、あえてYOSHIKIさんの「ミラクル」をもってくることで、闇から光へと至る様を鮮明にしたかったのでしょう。

そういうところひとつ取っても、彼女がただきれいに歌を歌うだけの人気歌手と違い、ひとつの一大叙事詩的作品を演出することに徹する真のクリエイターであることが伺えるのです!

  

それでは本日もご愛読ありがとうございました。 

 

サラ・ブライトマンHYMNワールドツアー広島公演レビューシリーズ

●第一夜「僕の街のサラ・ブライトマン

hidekimatsubara.hatenablog.com

 

●第二夜「サラ・ブライトマン『HYMN』ワールドツアー来日公演in広島」

hidekimatsubara.hatenablog.com

 

●第三夜「涙のサラ・ブライトマン

hidekimatsubara.hatenablog.com

 

●第四夜「嵐のスタンディングオベーション

hidekimatsubara.hatenablog.com

 

●第五夜「サラ・ブライトマンがHYMNワールドツアーで実現したこと」

hidekimatsubara.hatenablog.com

 

 

DJヒデキマツバラ presents ニューイヤーカクテルパーティー
Mon Plaisir 〜モン・プレジール〜

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【Date】2020-1-19(Sun)14:00 - 15:50
【Place】Miminowa Music Studio
【Admission】 ¥2750 (with Special Cocktails & Tapas)
【Performance】DJヒデキマツバラ、MAYUMI、コンスタンツェ、SAM
【Reservation】ヒデキマツバラTwitter 又は info@miminowa.com までご連絡ください(2020/1/10ご予約〆切)

パフォーマー募集中】2020/1/10までにツイッターかメールでご連絡ください。
【クリエイター募集中】 2019/12/31までにツイッターかメールでご連絡ください。

 

 人助けのことを歌ったオリジナル曲「Ring The Bell」


RING THE BELL ヒデキマツバラ by Hideki Matsubara