ヒデキマツバラの猫道Blog

愛猫家ミュージシャン、ヒデキマツバラの猫道(キャットウォーク)ブログ

人生最後のレッスン 〜新曲「GODSPEED」に寄せて〜 - THE LESSON -

 

先日はカクテルパーティーGODSPEEDご来場ありがとうございました!

それと前回ブログで公開した新曲歌詞、読者の方々からさまざまな反響が寄せられました。

hidekimatsubara.hatenablog.com

 

新曲「GODSPEED」は春風のようなトランスサウンドに乗せたメッセージソング。

今日はその創作エピソードを綴っていきますね。

 

 

絶たれた望み

おととしの暮れ、ピアノ講師だった母が倒れた。

その日を境に、母の愛弟子たちは突然に指導者を失うことになった。

 

彼らのレッスンは僕が引き継ぐことによって、混乱は免れた。

中学に上がったばかりのマリちゃんを除いて。

 

母は生徒たちの素質を見抜く眼力をもっていた。

そしてそれを掘り起こす術を心得ていた。

 

ピアノレッスンに通っていた小学生のマリちゃんに、音楽理論や作曲、即興演奏法まで教え込んだのも、母だからこそ。 

音楽の奥深さに目覚めたマリちゃんは、短期間のうちに力をつけて才能を開花させていった。

おそらく思春期にさしかかる女の子にとって、母のような愛情深い初老女性に学ぶこともまた、祖母と孫のような関係で心地よかったのだろう。

 

そんな母と厚い信頼関係で結ばれていたマリちゃんは、僕の代講レッスンを受ける代わりに、母が復帰する日を待つことを選んだ。

そしてその日が訪れることはついになかった。

 

葬儀の日、ハンカチを目に押し当て涙にかきくれるマリちゃんがいた。

僕は彼女を抱きしめた。

「ピアノ、お家で弾いてる?」

問いかけると、腕の中でマリちゃんはコクンと頷く。

「よかった。これからもピアノ弾き続けてね。天国の美江先生も聴いてるよ」

マリちゃんは再びコクンと頷いた。

 

母の愛弟子たち

マリちゃん同様、母の愛弟子たちは皆、母の回復とレッスン復帰を信じて疑わなかった。

連日届けられるお見舞いの手紙、花々、品々。

たくさんの真心が母の病床を満たした。

 

「仕事がしたい。レッスンに復帰したい」

母もずっと言い続けていた。

 

苦難の1年だった。

愛弟子たちにとって、僕にとって、そして母にとっても。

 

だが苦難の中にあって、僕らにはまだ望みがあった。

母が健康を取り戻していくという望みが。

そして喜びがあった。母がまだ生きてこの世にいるという喜びが。

 

松原リディア美江を永遠に失った時、誰もが糸の切れた凧だった。

悲しみよりも先に僕らを襲ったのは虚無感だった。

美江先生のいない世界が信じられない。

なにしろ僕が生まれる以前から母に教えを請うてきた長い愛弟子までいるのだから。

 

いまだかつてない虚無感と悲しみ。

その渦中でもがきながら、僕はこの1年間つらい時にいつも自分を支え続けてきた問いを口にした。

 

「今この状況から何か学べることがあるとすれば、それは何か?」

 

そして瞬時に学びを得た。

「今こんな状況だからこそ、書ける歌があるはずだ」

 

Are you ready?

もし天に召された母が、この地上に残してきた愛弟子たちにメッセージを送るとしたら何だろう?

そこが創作の原点になった。

 

新曲「GODSPEED」をメッセンジャーにしよう。

母から愛弟子たちへの。

 

そうして創作にのめり込んでいくうち、僕は「死」「喪失感」「涙」「悲しみ」に取り巻かれ湿気にまみれた暗雲の上空に出ることができた。

 

まず浮かんだのは冒頭のフレーズ。

Are you ready?(用意はいい?)

Ready to fly away?(飛び立つ準備はできてる?)

 

それは松原リディア美江を失った人たちにふさわしいメッセージだと思えた。

と同時に、自分自身が一番必要としていた言葉だったのかもしれない。

 

糸の切れた凧のような僕らには、母の死を受け入れるだけでも困難なこと。

まして、飛び立つ準備なんてできているはずもない。

 

でも心のどこかでは知っていた。

いつかは飛び立たねばならない日が来ることを。

前触れなく、松原リディア美江から卒業しなきゃいけない時がくることを。

 

折しも卒業シーズン。

いつかは旅立ちの日がやってくる。

それが今なのだ。

 

それを学ぶことこそ、松原リディア美江が僕らに与えてくれた最後のレッスンなのかもしれない。

 

魔法の遠近法

Are you ready?で始めた歌は、そのまま英語で作詞していくことに。

相手のハートに向けてダイレクトに前向きな気持ちを届けようとする時、ストレートでシンプルな英語表現が生きる。

そういえば母はちょっとしたメッセージを書く際に、くだけた英語でサラサラ綴るのが好きだったっけ。

 

言葉の創作において重要なポイントは「視点」

今作は珍しく2つの視点から作っていった。

 

①主人公のそばに寄り添っている視点

②主人公を天空の彼方から見下ろしている視点

 

それは自分が抱いている感触そのものでもあった。

つまり、母は世界のどこよりも遠いところに逝ってしまったけれど、一緒に暮らして一緒に仕事していた時よりも自分のすぐそばにいる、という感触。

 

「遠くて近い」2つの視点で創り込むうち、思いがけない創作技法を発見した。

距離感の振り幅が大きいほど、作品にあたたかみと神々しさが宿るのだ!

 

人生を締めくくるワード

急な神戸出張が入ったため、発表1週間前にはソングライティングを終わらせた。

と思って安心していたら「まだ完成してないよ」という声がする。

 

それは自分の内側から聞こえてくる声なのか?

はたまた天の果てから聞こえてくるのか?

 

それで改めて作品に向かったところ、絵画で言う所の「目」がまだ入っていないのに気づいた。

外観は描けていても、骨髄のないクラゲ。

これではいくら耳あたりの良い綺麗な言葉を並べたところで、人の心に響くはずはない。

 

最終新幹線で帰宅した深夜、再び作詞ノートにかじりついた。

またしてもライム(脚韻)の合う言葉探しから再スタートである。

 

この歌に絶対不可欠なのは、母の人生を総括するにふさわしい結晶のような言葉。

そこで2番までの歌詞を大幅に改変した上で、さらに3番を書き加えた。

 

そしてついに歌の最後を締めくくるにふさわしい結晶ワードを発掘した。

母が53年間の音楽家生活を捧げて見つけたものが、この一節に込められている。

 

You're my masterpiece(あなたこそ私の最高傑作ですよ)

 

「完成したよ」

どこかでそんな声がした。

 

f:id:hidekimatsubara:20200314193930j:plain

GODSPEED

作詞・作曲・編曲/ヒデキマツバラ

 

Are you ready?

Ready to fly away

And now you’ll see

Make your lives, seize the day

 

Breaking of dawn

You’re not alone

 

Godspeed! Godspeed to you!

Godspeed! Godspeed to you!

Godspeed! Godspeed to you!

Godspeed! Godspeed to you!

 

Embrace the sunshine

You’re gonna be alright

Across the skyline

Feel so free like a butterfly

 

Time to depart

Follow your heart

 

Godspeed! Godspeed to you!

Godspeed! Godspeed to you!

Godspeed! Godspeed to you!

Godspeed! Godspeed to you!

 

Are you ready?

Ready to start again

Let it be

Let yourself go and entertain

 

Time to release

You’re my masterpiece

 

<対訳>

準備はいいですか?

飛び立つのですよ

今にわかるから

人生をつかみなさい

この瞬間を生きるために

 

夜が明けてゆく

あなたはひとりぼっちじゃない

 

祈っています あなたのご成功を

祈っています あなたに神のご加護を

 

胸に陽射しを抱(いだ)きなさい

あなたならうまくゆく

地平線を超えてゆけば

蝶のごとく自由の境地へ

 

旅立ちの時ですよ

心のままに従いなさい

 

祈っています あなたのご成功を

祈っています あなたに神のご加護を

 

準備はいいですか?

再スタートですよ

なすがまま

体裁は気にせず楽しんで

 

世界へ向けて はばたきなさい

あなたは私の最高傑作なのですから

 

 

新たにライブ動画をアップしました。

アクアボーイ物語のプロローグを飾ったオリジナル曲「The Sound of Rain」


THE SOUND OF RAIN ヒデキマツバラ by Hideki Matsubara