姉カイリーのスポットライトの陰から抜け出せなかったダニー・ミノーグ。
そんな彼女の身に降りかかる芸能人生最大の危機。
そこからターニングポイント作「All I Wanna Do」が生まれるまでの経緯を追いかけていきます。
前回からの続きです。
hidekimatsubara.hatenablog.com
セレブ婚の破綻
それはセカンドアルバムが不発に終わり、ダニーの音楽活動に陰りが見えてきた矢先のこと。
彼女の名を一躍、音楽ファン層以外にも知らしめた出来事がありました。
ドラマ共演で知り合い、恋人づきあいしていた俳優との結婚です。
しかもそのお相手の彼というのが、当時のオーストラリア首相の息子でした。
国を代表するサラブレッドとのセレブ婚に、オーストラリア国民は色めき立ち、国中が祝福に包まれます。
ところが順風満帆に見えた結婚生活は、2年も経たず破綻。
離婚を機に、ダニーの人生の歯車は狂い始めます。
スキャンダル街道
離婚報道から間も無く、世間に強いインパクトを与える数枚の写真が出回ります。
ダニーがプレイボーイ誌でフルヌードになったのです。
離婚したとはいえ、数週間前まで首相ファミリーの新妻であったダニー。
そんな彼女のあられもない姿に、国民はショックを受けます。
しかも衝撃はそれだけにとどまりませんでした。
そこに写っていたのは、新しい顔と胸を得たダニーだったのです。
オーストラリアを代表する国際アイドルスターが、美容整形手術と豊胸手術をしてフルヌード。。。
各国タブロイド誌の見出しには「悲惨なる変貌!」という文字が踊り、ダニーは猛バッシングされました。
スリムな姉と違い、顔も体型もふくよかだったことにコンプレックスを持っていた彼女。
どれくらい印象が変わったかというと、
整形前
整形後
え、これがダニー!?
目を疑ったものです。
健康的なオーストラリア娘の面影を失くし、別人なまでの変わりよう。
頬なんかすっかりコケて。。。
契約解除
こうなるともう、姉の陰にいるB級アイドルどころの騒ぎではありません。
アイドルの成れの果てとも言うべき、場末感さえ漂う始末。
そんな彼女は、本業の方でも危機的な状況におかれていました。
所属レーベルMushroom Records(マッシュルーム・レコード)が、ダニーとの契約を破棄したのです。
すでにレコーディングを完了していた3枚目のアルバムは、お蔵入りにされてしまいました。
こうしてアルバム制作にかけた資金の回収手段が断たれてしまいます。
ダニーは後年インタビュー番組で、プレイボーイ誌の仕事は金銭的な苦境に立たされて引き受けた、と涙ながらに語っています。
もしかすると、アルバム発売中止も金銭的苦境の一因となっているのかもしれませんね。
ちなみにお蔵入りにされた幻のサードアルバムは、14年後にひっそりと日の目を見ました。
レコード契約を失った彼女は、テレビ業界に転身を図ります。
こうしてダニーは音楽シーンから姿を消したのでした。
新しい顔 新しい名前
セカンドアルバムから4年。
移り変わりの激しいUK音楽シーンで、4年ものブランクは致命的。
しかもその4年間で、ダニーのイメージや好感度は地に落ちてしまいました。
彼女が音楽シーンにカムバックするなど、誰が想像できたでしょう。
しかし彼女はこの不遇の期間を通じて、失敗を受け入れ、自分の可能性を信じることを学びました。
そして新たなインスピレーションを得て、彼女は音楽制作に戻ることを決意したのです。
姉を意識しすぎるあまり自分のイメージを縛ってしまうことも手放しました。
失うものは何もない彼女にとって、名もない新進の音楽プロデューサーたちとともに自身のオリジナルアイディアを具現化していくことが全てでした。
やがてダニーがワーナーUK傘下の新興ダンスレーベルEternal Records(エターナル・レコード)と契約を結んだことがアナウンスされます。
こうして制作された3枚目(実質的には4枚目)のアルバム「ガール」
そのアーティスト名に「ミノーグ」の文字はありませんでした。
「ミノーグ」の呪縛を解くかのように、そこに冠された名前はシンプルに「ダニー」だったのです。
禁じ手カムバック
新作からまず世に送り出された先行シングルが「All I Wanna Do」でした。
前のめりなブレイクビート混じりで、エッジの効いたドリーミーなダンスポップ。
手がけたのは、後にUKを代表する人気プロデューサーチームとなったXenomania(ゼノマニア)
この復帰作は好意的な驚きをもって迎えられました。
なぜなら、それまでダニーが禁じ手としてきた姉カイリーのイメージを踏襲していたからです。
ミュージックビデオのイメージも、それまでのトーンから一新、カラフルで華やかになりました。
詳しくは後述していきます。
興味深いことに同時期、姉カイリーは正反対にダークイメージを打ち出しています。
ベリーショートな黒髪、サウンド面ではインディーズロックやトリップホップに傾倒。
姉妹でメジャー/マイナー感が逆転したことは、そのままチャート実績上でも明暗を分けました。
低迷期に陥っていた姉に代わって「All I Wanna Do」はダニーにキャリア最高の成功を与えたのです。
夢色の挑発
ダニーのネガティブイメージを覆した復帰作「All I Wanna Do」について、詳しく検証していきましょう。
まずはCDジャケットから。
夢見る初々しい少女のようなカラーリングですが、その一方でポーズは意味深です。
左手の人差し指は物欲しそうに唇に当て、右手の人差し指は金魚鉢の水面に浸している。
解釈するとしたら、官能性に目覚めた少女像でしょう。
そうしたイメージをさらに大胆に発展させていったのがミュージックビデオです。
Al I Wanna Do(オリジナルバージョン)
一見したところ、まるでデビューしたてのアイドルのような目もくらむ原色の世界観。
ですが、そこにはむしろ「成熟した静かなる挑発」が感じられます。
僕を含め、当時このビデオを見た人は皆、倒錯感を覚えました。
なぜなら少女カラーの部屋に身を横たえるのは、フルヌードを披露したことのある色香漂う大人の女性であることを知っていたからです。
このビデオは、目先の健全な色彩イメージに惑わされるようにできています。
が、よくよく見てみると、婉曲的ながらも、小道具を生かした扇情的な表現がそこかしこに散りばめられているのが見て取れます。
ピンクの電話を手放さない(ピンク=愛、甘え、誘惑の象徴)
人差し指に巻きつけたピンクの電話回線
肌触りの良い白猫や敷物
丸みと柔らかさを帯びたインテリア全般は女性の体つきや性玩具を思わせる
ピンクのバスルームに浮かび上がるシルエットにかかった水しぶきetc
また西洋では、金髪で細眉の女性=性風俗系の女性とみなされます。
そんなルックスをした彼女を、男性や少年、少女(レズビアン?女装した少年?)までもがネットの向こうから見つめています。
性の対象として。
こうやって言葉でいちいち説明すると、なんともセクシーで大胆なミュージックビデオですね^^;
ポイントは、セクシーさを過激な描写で見せるのではなく、夢見るような遊び心で演出しているところ。
そういう知的クリエイティブなセンスは、さすがシェイクスピアの国のエンターテイメントだなと感心せずにはいられません。
ただしセクシャルなイメージを利用しながらも、ダニーの真意は大衆を挑発することではありませんでした。
この歌の鍵は、少女性を卒業する女性の本音にあります。
彼女が音楽シーンに復帰して再び大衆に受け入れられたのも、その告白が功を奏したからに他なりません。
次回そのあたりを紐解いていきますね。
(続く)
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