- 火星の出 - Mars Rising -
- 小さな天文博士 - A Little Astronomer -
- 天文台の友人 - An Astro-Friend -
- プラネタリウムの好々爺 - Old Man of Planetarium -
- アリゾナの空の下 - Destination Arizona -
- もうひとつの夢 - Another Dream -
- ふたつの夢を同時に実現する方法 - Dreams Come True -
- 門出 - Departure -
火星の出 - Mars Rising -
夕刻、東の空から真っ赤な星が昇ってきます。
このところ、火星が最接近中ですね。
すっかり秋めいて、夜空も澄んできました。
こうして毎夕、火星の出を眺めていると、僕はある小さな天文博士のことを思い出してしまうのです。
小さな天文博士 - A Little Astronomer -
それは宇宙に魅せられた子供でした。
その子は太陽が西の空に沈むたび、星座早見盤を手に自宅ガレージへ出てきます。
そして3メートル近いガレージの門柱によじ登っては、毎晩そこで天体観測をするのでした。
やがて観測データを集め終えた彼は、家に入ると次は観測日記をつけるのです。
そんな子供でしたから、まだ明るくてお星様が顔を出せないでいる時には、宇宙の本を読み耽(ふけ)っています。
その膨らんでゆく知的好奇心に、お子様向けの宇宙本で物足りるはずもありません。
本屋に足が向くたび、彼は大人向けの天文専門書コーナーで胸ときめかしているのでした。
天文台の友人 - An Astro-Friend -
6年生の夏、彼は家族と一緒に、宿泊ロッジが併設された天文台に宿泊しました。
そこには、ちょうど東京から取材にやってきた天文雑誌のカメラマンも滞在していました。
その子はたちまちカメラマンと懇意になり、大胆にも自分から文通を申し込んでしまったほど。
宇宙が取り持った縁に、年の差は関係ないものなのですね。
「宇宙好きな人に悪い人はいない」と言います。
飯島豊さんというそのカメラマンもまさしくそうした純粋な方で、二人の文通はその子が大人になるまで続きました。
宇宙への憧れは尽きません。
その夏が終わる頃、少年は貯めに貯めたお小遣いで、ついに天体望遠鏡を購入しました。
あぁ、その子はどれほど幸せだったことでしょうね。
月のクレーターなんて、手を伸ばせば届きそうな距離に見えるのですから。
プラネタリウムの好々爺 - Old Man of Planetarium -
その子はプラネタリウムへ足繁く通いつめました。
そして上映が終わるたび、学芸員のおじさんを捕まえては、宇宙の不思議についてたくさん質問しました。
その日、彼が学芸員の加藤さんに尋ねたのは、ブラックホールについての核心的な質問でした。
学芸員の加藤さんは、熱意あふれるその少年を丁寧に学芸員室に通すと、少し困った顔でこう告げました。
「その質問の答えはね、君が高校生になって物理を学ぶ頃になったら教えてあげよう」
その様子を、部屋の隅でニコニコと聞いていた人がいました。
まるで童話に出てきそうなその好々爺が、彼らのそばに来て口を開きます。
「加藤くん、それは違うよ」
おじいさんはそう言うと、少年の投げかけた質問に対して、誠実に答えてあげました。
そのおじいさんこそ、広島を代表する天文学の権威、故・佐藤健先生でした。
そんなすごい人とはつゆ知らず、少年は頭を下げて佐藤教授に謝意を述べると「今度からこの親切なおじいさんに質問しよう」と心に決めたのでした。
アリゾナの空の下 - Destination Arizona -
中学3年の夏。
進路相談を控え、少年は迷っていました。
彼にはなりたいものが2つあったからです。
ひとつは天文学者。
そしてもうひとつは「スターライト・エクスプレス」のようなミュージカルを作る音楽家。
プラネタリウムで佐藤教授に進路のことを相談してみました。
すると教授は「アリゾナ大学天文学部のゲーレルズ博士を紹介してあげよう」と言うではありませんか。
その言葉がきっかけで、翌夏、少年はアリゾナへ飛びました。
昼間はアリゾナ大学を見学し、夜になれば満点の夜空を見上げました。
あぁ、その星の数ときたら!
アリゾナはほとんど砂漠地帯なので、星の光を遮るような光害どころか、家の明かりひとつ見えません。
その利点を生かし、山の稜線に沿って、いくつもの天文台が愉快に点在しています。
まさしく星好きにとって理想の地なのでした。
もうひとつの夢 - Another Dream -
その時期、時を同じくして、少年が夢中になったものが2つありました。
ひとつはシンセサイザー。
もうひとつはマドンナのライブステージ。
実はこの時の彼の渡米は、アリゾナ大学だけでなく、ニューヨークの名門ジュリアード音楽院の下見も兼ねていたのです。
そう、宇宙の夢だけでなく、音楽への夢もどんどん膨らんでいました。
ここだけの話、アリゾナに飛ぶ直前まで、彼はジュリアード音楽院の向かいにあるタワーレコードでマドンナコーナーを漁っていたんですって。
ふたつの夢を同時に実現する方法 - Dreams Come True -
やがて、彼は決心しました。
音楽の道を志すことを。
音楽大学の入試準備に入り、毎月東京までピアノレッスンに通う日々。
でも彼は決して宇宙を諦めたわけではありません。
彼には、とっておきの秘策がありました。
音楽と宇宙、ふたつの夢を同時に実現する秘策が。
それは、宇宙をテーマに音楽を作ること。
うまいこと結びつけたものです。
シンセサイザーという楽器ほど宇宙的で、無限のサウンドと可能性を秘めているものはありませんからね。
門出 - Departure -
かつては小さな小さな天文博士に過ぎなかった彼。
それがいつしか宇宙を奏でるシンセサイザー奏者として歩み始めました。
そんな彼の門出を、天文カメラマンの飯島豊さんや天文博士の故・佐藤健先生はとても喜んで祝福しました。
彼のデビューライブでは胸の熱くなる応援メッセージを寄せ、飯島さんに至っては彼の初CDを天文誌上で紹介までしてくれました。
そんな彼がデビューして1年後、完成した作品が「プラネット・アース」
彼の音楽キャリア初期を代表するこの楽曲は、音楽と宇宙、ふたつの夢を叶えた記念碑となったのでした。
PLANET EARTH ヒデキマツバラ by Hideki Matsubara
◾️ヒデキマツバラ音源作品◾️
航空機シリーズ第3弾「テイクオフ」をアップしました✈️✈️✈️
TAKE OFF ヒデキマツバラ by Hideki Matsubara
◾️今月のライブ動画◾️
美美の環オリジナルミュージカル「ギリシア神話」エンディングテーマ曲
亡くなった母との共作です✨
バラの谷エンナ(ミュージカル「ギリシア神話 〜デメテルとペルセポネ〜」より)ミュージックハウス美美の環/松原リディア美江/ヒデキマツバラ