ヒデキマツバラの猫道Blog

愛猫家ミュージシャン、ヒデキマツバラのキャットウォークブログ

命を刈り取る者 種を蒔く者 〜ミュージカルテーマ曲「バラの谷エンナ」制作秘話(最終回)〜 - When A Flower Has Gone -

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美美の環ミュージカル「ギリシア神話デメテルとペルセポネ〜」公演より


4回に渡って連載してきたミュージカル「ギリシア神話」テーマ曲制作秘話。

今日は最終回です。

 

◾️制作秘話Part1◾️

◾️制作秘話Part2◾️

◾️制作秘話Part3◾️

 

 

ガイアの天使

「バラの谷エンナ」作曲のインスピレーションになったのがフロリダの大庭園

そして作詞のインスピレーションになったのがジョセフィン・ウォールの絵画でした。

 

とりわけ僕の心を捉えたのが「Earth Angel(大地の天使)」

 

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星屑でできた翼と、緑豊かな村をなす髪を持ち、その手に地球を抱いた天使。

虹をさえずる鳥を従え、蝶や動物たちと共に大洋を渡ってゆく。

 

これこそ母の作った初稿の歌詞にふさわしいイメージだと感じました。

輝く緑の森、小鳥たちのさえずり、泉のほとり、夢にまどろむ羊、甘い花の香り、小さな妖精たち、遥かなる西風。

 

魂のスケッチ

こうしたイメージを束ねていくうち、僕の描きたい「エンナ」が見えてきました。

それは

・人間の内側に宿る魂

・良心、美しい心

・愛、勇気、希望

・平和を願う想い

 

作詞ノートに書き込んでいくほど、楽曲コンセプトが膨らんでいきます。

目指すは神話的な歌。

死を司る冥界の王ハデスとのせめぎ合いを経て生まれる、壮大かつ普遍的な人生の歌。

 

楽曲を構成するテーマは3つ。 

1 人間の内なる魂の描写

2 魂から呼びかける声

3 リインカーネーション(輪廻転生)

 

作詞家として挑戦しがいあるテーマでした。

実際に曲を聴いていただきながら、続きを述べていきましょう。

 

インカーネーション


バラの谷エンナ(ミュージカル「ギリシア神話 〜デメテルとペルセポネ〜」より)ミュージックハウス美美の環/松原リディア美江/ヒデキマツバラ

 

バラの谷エンナ

バラの谷 エンナ 美しいエンナ

小鳥のさえずり 森を包み

甘い花の 香り放ち 妖精を誘う

 

陽だまりの羊は 夢うつつまどろむ

喜びと祈りを胸に

 

西風のメロディ 木洩れ陽のレース

泉のつぶやき 遠く近くこだまして

優しく地球(ほし)に語りかけている

 

誰も皆 心に楽園が広がる

そう 愛という名の恵み

 

花は枯れてゆき 土に還るけど

(その種は 息づいて)

巡りくる季節 告げる光

(やがて)

雪溶けの予感に

明日の蕾が膨らむ

 

時は地球(ほし)の想い 刻みながら

永遠に神話 紡いでゆく

バラの谷 エンナ 美しいエンナ

 

作詞/松原リディア美江、ヒデキマツバラ

作曲・編曲/ヒデキマツバラ

 

言霊のシンボル

3つの大きなテーマ、それぞれ歌詞でいうと

1 冒頭〜「地球に語りかけている」までが、人間の内なる魂の描写

2 「誰も皆」〜「愛という名の恵み」までが、魂から呼びかける声

3 「花は枯れてゆき」〜最後までが、リインカーネーション

という流れになります。

 

言葉には一つ一つ象徴性を持たせました。

例えば 

地球=生命(人間、動物、植物、生きとし生けるものすべて)

羊=犠牲

時=神

など、シンボリックな言葉を随所に散りばめています。

  

こうして完成した「バラの谷エンナ」は、美美の環スタジオの代表曲となりました。

ミュージカル公演以来、コンサートの定番曲として17年間歌い継がれています。

 

枯れゆく花 芽吹いた種

この歌を心から愛したのは、共作者である母・松原リディア美江でした。

そんな母が、闘病生活の果てに他界したのは、今年の1月。

 

それも、やっと回復への道筋がついた矢先の死。

しおれていた花が、再び頭をもたげようとしながら、あっけなく散ってしまったのです。

 

母の病と向かい合って1年。

再び健康な体を取り戻せるよう、手を尽くしてきた中でやっとつかんだ光明。

いともたやすく母の命の炎を吹き消した冥界の王ハデス。

僕は徹底的に打ちのめされました。

 

半日、救急救命室で母と過ごした後は、遺体の運ばれた教会で葬儀屋とのミーティング。

つらかったのは、堪え難い悲しみのさ中にありながら、お金の話ばかり先行させなくてはならないこと。

棺のランク、供花の本数、各所へのお布施etc

 

何も食べ物が喉を通らず、ロクに寝ないまま迎えた葬儀の朝。

混乱したまま機械的に喪服に着替えてると、突然インスピレーションが。

 

母の愛した「バラの谷エンナ」で最期を送ってあげよう。 

すぐ音源をCDRに焼き、参列者用に歌詞表をプリントアウト。

たった一つの小さな思いつきが、僕に生きる力と慰めを与えてくれました。

 

別れの時が来たのなら、最善の形でお別れしたい。

個人としても、喪主の立場としても。

 

当時のミュージカルキャストたちも集った聖堂。

母の棺を前に、参列者一同「バラの谷エンナ」を歌いました。

 

美しく気高いもの、言葉、思想、それらは人間の死とともに滅んでしまう。

けれど、その種(=志、魂)は受け継がれる。

 

母が愛したこの歌を、別れの歌として歌うことになろうとは。

その時、僕は思いもよらないことを学びました。

 

僕のエンナは、母だったのだと。

だから、次は僕がエンナになって、音楽畑の花々や果実たちを育んでいこうと。

 

 

◾️今月のライブ動画◾️

フェリー・コーステンの歴史的名盤をリミックスしたライブ動画です✨


Ferry Corsten - Ligaya (Hideki Matsubara Remix) Gouryella ヒデキマツバラ

 

◾️ヒデキマツバラ音源作品◾️

変拍子で奏でる 航空機シリーズ第3弾オリジナル曲「テイクオフ」✈️✈️✈️


TAKE OFF ヒデキマツバラ by Hideki Matsubara