ヒデキマツバラの猫道Blog

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タブーに挑むことがクリエイターの醍醐味 〜オリジナル曲「Mystique」制作秘話(後編)〜 - Taboos & Unbelievers -

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ヒデキマツバラLIVE「FALL IN LOVE」より『ミスティーク』

 

随分長くなった『ミスティーク』制作秘話シリーズも、今日で最終回。

 

物語やコンセプトを明確に設定しないうちから、直感だけで完成に至った歌。

今日は、そうやってできた歌詞を解釈しながら、そこに潜む物語を紐解いていくことからスタートしましょう。

 

前回までの記事はこちらです。

●制作秘話(前編)

●制作秘話(中編) 

 

 

親密に 深遠に - Get Closer, Go Deeper -

今一度、歌詞とライブ動画をどうぞ。

ちなみにライブ幕開けだったこの曲、照明さんがライトとスモークを駆使してくれたおかげで、会場のお客様から見ると、セット上に横たわる僕が宙に浮いているように見えたのだとか!

 


MYSTIQUE ヒデキマツバラ by Hideki Matsubara 

 

MYSTIQUE

 

その吐息 バビロンの風

その香り サフランの園

 

朽ちたアイコン葬って

あなたの腕をとる

 

Open your heart

囚われた愛の日々

封印解いて その手で

 

その瞳 イシュタルの詩

その鼓動 サントゥールの音

 

胸のロザリオ引きちぎり

あなたに口づける

 

Open your heart

痛みさえ麗しき

魅惑のめまいに 溺れて

 

Open your heart

千夜に一夜もの

情熱とかして 燃え立つ

 

Behind your face

Behind your mind

Get closer

Go deeper

Open your heart

 

作詞・作曲・編曲/ヒデキマツバラ

 

背信者の歌 - Song of Unbelievers -

『ミスティーク』の歌詞から読み取れること。

まず主人公はクリスチャンのようです。

それも厳格なカトリック教徒。

というのも歌詞に「アイコン*」や「ロザリオ*」が登場するから。

 

*アイコン(=イコン)…キリストや聖母マリアなどの聖人画

*ロザリオ…十字架のついた数珠状のネックレス

*注釈…アイコンやロザリオはカトリック教徒が用いるが、プロテスタントはいずれも使用しない。

 

そんな主人公がアラブ人と出会い、恋に落ちます。

その深い愛ゆえに、信仰のよりどころであったキリスト教を捨て、異教徒と交わることを決意したのです。

つまりキリスト教的な視点から見れば、この歌は「背信者」のラブソングなのです。

 

宗旨替え - Conversion -

現代の民主的な社会では信仰の自由が認められていますが、かつては生まれながらに信仰の対象が決められていました。

その信仰ゆえ、何世紀にもわたる聖戦という名の血みどろな宗教戦争さえも勃発。

 

そうした状況下で宗旨替えをしようものなら、それが意味するものは家族関係の断絶、失職、コミュニティーからの永久追放でした。

時には命がけの行為だったことでしょう。

 

もしかすると、十字軍が目指した聖地エルサレムや、レコンキスタ下のイベリア半島で(*いずれも初回記事参照)そういう生き方を選んだクリスチャンやムスリムがいたのかもしれません。

国や地域によっては、いまだに生まれながらの宗教的な縛りから自由になれない人々も多いことでしょう。

 

3本のキャンドルは、僕を通じてそのことを歌にして欲しかったのではないでしょうか。

『ミスティーク』という歌は、一見ラブソングのように見せかけながら、声にできない苦痛が宿っているのかもしれません。

 

タブーだらけの歌詞 - Broken Taboos -

次に、別の視点から『ミスティーク』を解釈していきましょう。

 

歌詞には、熱烈でドラマティックな表現を多様しました。

その中には、厳格な信者たちをギョッとさせるようなドギツイ表現がいくつもあります。

 

キリスト教的タブー

「朽ちたアイコン葬って 」(1番Bメロ前半)

朽ち果てた聖人画を捨て去るわけです。

かつて江戸時代の踏み絵にも等しい行為と言えるでしょう。

 

「胸のロザリオ引きちぎり」(2番Bメロ前半)

十字架のついたネックレスを引きちぎる。

我々仏教徒でいえば、数珠を引きちぎるほどに罰当たりな行為です。

 

厳格なカトリック信者にとって、アイコンやロザリオは神そのもの。

それを捨て去るということは、神を冒涜する行為です。

 

ところがイスラム教では偶像崇拝が禁じられていますから、逆にアイコンやロザリオはご法度なわけで。

つまり主人公からすると、それらを捨て去るほどの決意を持って、相手を深く愛していたと解釈できます。

 

イスラム教的タブー

「あなたの腕をとる」(1番Bメロ後半)

西側諸国の価値観で育った我々にとって、手をつないだカップルは見慣れた光景です。

ところがイスラム教では、結婚するまで異性に触れることは許されません。

従ってこのラブソングに限って、相手の手をとるという行為は、タブーを犯すことを意味しています。

 

「あなたに口づける」(2番Bメロ後半)

婚前で異性に触れてはならぬのがイスラムの掟なら、キスなんてとんでもないこと。

それどころか、結婚した夫婦であっても、公共の場でキスをすれば逮捕されてしまいます(!)

 

作り物の歌とはいえ、信仰の自由が保障されている僕みたいな日本人だからこそ『ミスティーク』が書けたわけです。

もし僕がバチカンサウジアラビアでライブ公演できる日が来たとしても、演目に『ミスティーク』を加えることは当局から断固拒否されるでしょうね(笑)

 

クリエイターの醍醐味 - The Creator -

作品の中でこうしたタブーを破ることは、クリエイターにとって痛快です。

クリエイターが目指しているものは、自分を含めて誰かが設定した「限界」を超えることだから。

 

音楽や芸術が国境を超えたものであることと同様。

限定されたものを超越することは、新たな価値観を創り出します。

 

ちなみにライブ動画の最後で、首元のストールを振り回してほどくシーンは、限界からの解放を象徴してます。

初のセルフプロデュースだったステージの幕開けにふさわしいお気に入りシーン。

 

クリエイターの本領が発揮されるのは、むしろ限定された状況に置かれた時でしょう。

今のようなコロナ禍で活動が限定されてしまう時こそ、不自由な中、いかに自由な表現を生み出すか、挑みがいがあります。

そういう意味では、ピンチからチャンスを創造できる人こそ、本物のクリエイターと言えるでしょう。

 

美が宿る場所 - Unlimited & Limited -

タブーに挑めばクリエイティブになれる、というわけではありません。

型破りなことをすればクリエイティブになれる、というわけでもありません。

 

自由奔放に限界を超えつつ、同時に「型」という限界を設けることがクリエイティブなのです。

挑んで超越する部分と、美しい形に収める部分と。

不思議なことに「直感」から生み出されたものは、必ずそうした両極性を備えています

 

それは音楽や芸術に限らず、ファッションや建築など、美しいスタイルを目指すものは皆同じ。

どんな異質で奇抜なスタイルであっても、抜け目なく秩序だった「型」という美学に裏打ちされているのです。

 

型の美学 - Aesthetics of Creation -

そうした視点で『ミスティーク』の歌詞に立ち返ってみましょう。

すると、その構成に「型」があることに気づくでしょう。

 

そう、タブーを犯す描写が登場するのは、いずれもBメロ部分なのです。

それも、カトリックのタブーを犯すのはBメロ前半で、イスラムのタブーを犯すのは後半。

 

Bメロだけではありません。

その他のフレーズも秩序だち、型にはまった構成になっています。

 

Aメロ…愛する相手(シェヘラザード)の姿を描写

Bメロ…カトリック及びイスラム教のタブーを1つずつ犯す

サビ…縛りから解き放たれて愛を体現する男女を描写

 

こうした型が、1番と2番を貫いています。

 

比較して見ると、2番の方がより深部/深層に向かう印象ですね。

そこには形骸化した信仰心に見切りをつけ、王妃シェヘラザードとの愛に生きる男の生き様が浮かび上がります。

 

もうひとつのミスティーク - Transformer -

『ミスティーク』が完成したのが、10年前の3月。

その直後、日本中を震撼させた出来事によって『ミスティーク』は新たな生命を吹き込まれて生まれ変わることになります。

そのことは、いずれまたじっくり書いていくとしましょう。

 

量的にこの長編記事は2回に分けて掲載したいところでしたが、書きたい記事がつかえているので一挙に載せちゃいました^^

3回にも渡ってお読みいただき、どうもありがとうございました。

 

 

◾️美美の環LIVE動画◾️

松原リディア美江一周忌を祈念して🎹


天使のセレナーデ ポール・モーリア / Paul Mauriat - La Chanson Pour Anna / ミュージックハウス美美の環 松原リディア美江 ヒデキマツバラ

 

◾️ヒデキマツバラ音源作品◾️

短編映像テーマ曲として全編オーケストラで書き下ろした「GLORY」🎻


GLORY -栄光の奇跡- ヒデキマツバラ by Hideki Matsubara

 

◾️ヒデキマツバラLIVE動画◾️

「生きることは愛だ❣️」最高潮に盛り上がった「クロノスコープ」


CHRONOSCOPE ヒデキマツバラ by Hideki Matsubara