ヒデキマツバラの猫道Blog

愛猫家ミュージシャン、ヒデキマツバラの猫道(キャットウォーク)ブログ

【和訳】アニー・レノックス/Stay By Me  〜大人としての苦い体験に寄り添ってくれる歌声〜 - Dark As Your Hair -

 

アニー・レノックス

凛々(りり)しく貫禄あるオーラを放ちながらも、いつだって傷ついた者の側に立つアーティスト。

彼女の作る歌は、僕らが大人として苦い体験を重ねるごとに、ますます味わい深く心の中へと染み入ってくるのです。

 

今日クローズアップする楽曲は、アニー・レノックス『ステイ・ウィズ・ミー』

この年頭にリリックビデオ第3弾として僕が動画制作した楽曲です。

 

 

歌詞/対訳

STAY BY ME
by ANNIE LENNOX

 

Stay by me

And make the moment last

Please take these lips

Even if I have been kissed

A million times

 

And I don’t care if there is no tomorrow

When I could die here in your arms

Even if the stars have made us blind

We’re blind, we’re blind

So blind in love

 

Sweet darling

Don’t you know that we’re no different to anyone

We stumble, we falter

But we’re no different that anyone

 

And all the winter snow has melted down

Into a pool of silver water

And we were standing in a thunder cloud

Dark as your hair

Dark as your hair

 

So blind in love

So blind in love

 

そばにいて

この瞬間を終わらせないで

どうか 私の唇を奪って

たとえ何百万回キスされてきたとしても

 

明日なんか 来なくていい

あなたの腕の中で 死ねるのなら

たとえ星々が ふたりを盲目にしても構わない

ふたりとも盲目ね

愛しか見えないの

 

愛しいあなた

わからない? 私たちも単なる凡人だと

つまずいたり しくじったり

人間ってそういうものでしょ

 

やがて冬の雪が すべて溶けてゆき

銀色の水たまりになったら

私たち 不穏な雷雲の下に立たされていた

あなたの黒髪のように 暗い雷雲の下に

 

愛しか見えない

愛しか見えないの

 

対訳/ヒデキマツバラ

 

安堵感と寂寥感

毎年1月から3月にかけて、必ず聴きたくなる歌です。

この楽曲の醸し出す雰囲気が、1年で一番寒い季節から雪解けまでの頃にマッチしていて。

 

暖かい部屋の中から、結露した窓越しに、冬の街路樹に舞う雪を目にするあの感じ。

春風の便りにはまだ遠いのに、肌なじみの良かった日々から卒業しなくてはならないあの感じ。

心地よい安堵感と、ものさびしい寂寥感が同時に押し寄せて、胸いっぱいになるあの感じ。

 

母を亡くした大寒もそうでした。

母性愛に包まれた日々から永遠に切り離され、ひとり窓辺で雪景色を見つめたあの冬の日。。。

春が訪れても、この胸の中に雪解けはくるのだろうか?

そんな辛い時期にも、母性あふれるアニー・レノックスの歌声が僕を慰めてくれたのです。

 

母性が生み出した初ソロ作

文学的な女性アーティストは、出産を体験した後、音楽史に残る傑作を生み出すもの。

その好例が、アニー・レノックスの初ソロアルバム『ディーバ』(1992年作)です。

 

 

男女ツインユニット、ユーリズミックスとして世界的な大成功を経た彼女が、死産と出産を経験した後、30代半ばでリリースしたファーストアルバム。

AOR*からソウルを主体としたサウンドを軸に、じっくり聴きこめる成熟した楽曲が収録されています。

*AOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)=若者向けの賑やかなロックではなく、洗練されて味わいある大人向けロック

 

ちなみに本作の日本盤CDには、こんなキャッチフレーズがつけられました。

カタルシス(精神浄化)の歌姫」

 

ユーリズミックスでは男装の麗人に扮して、聴衆を力づけ、勇気づけてきた彼女。

ソロに転向後、女性性を打ち出した本作では、母性を高らかに歌いあげ、聴衆に慰めと癒しをもたらしたのでした

 

本作は全英チャートで初登場1位を獲得し、5枚ものヒットシングル(Why、Precious、Walking On Broken Glass、Cold、Little Bird)が誕生。

1年以上も全英チャート上位にランクインするベストセラー作となり、イギリス版グラミー賞であるブリット・アワードで年間ベストアルバムを受賞しました。

 

季節感の裏に秘められたドラマ

アニーの音楽活動第2章の幕開けを華々しく飾った『ディーバ』

中でもとりわけ僕好みな楽曲が、この「ステイ・ウィズ・ミー」

 

心地よいグランドビートに、素朴なリコーダーと温かみあるバックサウンドが、まるで暖炉のそばにいるような気分にさせてくれます。

ただ、楽曲全般にメジャーコードが用いられているにもかかわらず、どことなく物憂(ものう)げな儚(はかな)さが漂っていて。

そういう陰と陽の絶妙なところに惹かれてしまいます。

 

対訳をご一読いただくと明らかな通り、刹那の恋に盲目になっている男女の姿が浮かび上がります。

雪に埋もれた冬の間しか愛し合えない関係。

それは不倫関係を想起させますが、行間を読めば読むほど、それ以上に深いものが感じられます。

 

そう感じるのは、これが冬の歌だからなのかもしれません。

季節に心象表現を重ね合わせる日本の歌と違って、洋楽には季節感のある歌詞が滅多に登場しません。

あえてアニーが冬という季節感を打ち出したのには、何かそれ相応の理由があるように思われるのです。

 

例えば、歌の最後に出てくる「Dark as you hair(あなたの髪ほどに暗い)」

これは絶望感を示唆しているのでしょうか?

もう生きてあなたと会えないかもしれない、という絶望感を。

 

アニーが伝えようとした物語

そう考えているうち、この歌の新解釈がひらめきました。

雪が溶けて春になったら、この恋人は戦争へ出兵するのでは?

だとすると、恋人と束の間の逢瀬を過ごす重みも納得いきます。

 

思い返せば、この楽曲が発表された当時、ヨーロッパでは民族分断による内戦が絶え間なく続いていました。

クロアチア紛争やユーゴスラビア紛争、それに続くボスニア・ヘルツェゴビナ紛争など。

後になって、彼女はアルバム1枚丸ごと反戦歌を作っているほどですから、こうしたテーマに触発されてこの歌を創作したのではないか?と深読みしてしまいます。

 

そう解釈すると、歌詞の中にある「人間は誰だって過ちを犯すものだ」というフレーズが活きてきますね。

不穏な雷雲の下に立たされ「ふたりに明日はない」という危機感も切実に浮かび上がります。

もしかするとイントロで流れる素朴なリコーダーの音色は、若者を戦争へ駆り出そうとするハメルンの笛吹きを象徴しているのかもしれません。

 

恋人へのラブソングでないとしたら

さらに踏み込んだ解釈をすれば、劇的に歌の意味が違ってきます。

もしこの歌が、恋人へのラブソングではなかったとしたら?

 

そこで、大胆な解釈をしてみました。

ひょっとすると、戦争に出兵することになった息子を想う母親の心境を描いた歌なのかもしれない!

 

歌詞に登場する「ダーリン」は、恋人だけでなく親しみある人たちへの呼びかけにも使われますし、西洋では親子でキスや抱擁を交わすことも一般的です。

だから、ここで歌いかけている相手が必ずしも恋人だとは限らないのです。

 

そんなこんな想像をしながら、リリースから30年も経つこの歌を、いまだに愛聴し続けている僕でして^^

 

アニーの歌声を一言で表現するなら

以前フロリダに滞在した時、テレビを見ていたら、たまたまアニーが渡米してテレビのインタビュー番組に出演していました。

スコットランド人のアニーはイギリスを拠点に活動していますが、ショービズ大国アメリカでも大スターであることが見て取れました。

彼女の堂々とした物腰や、男性並みの長身と短髪も、まさしく王者の風格です。

 

しかし彼女はその芯の強さと裏腹に、とても繊細な感受性の持ち主でもあります。

ソロアルバムで彼女が書き下ろしている歌詞からは、スポットライトの下で輝く彼女とは別人のような弱さや傷つきやすさがありありと伝わってきます。

そこには、社会的弱者に向けられた彼女の慈しみ深い眼差しもオーバーラップされているのです。

 

創作活動だけでなく、社会奉仕活動を通じて、常に弱者の側に立ってきたアニー・レノックス

そんな彼女の歌声を、一語で表現するとしたら?

 

僕の答えは、このリリックビデオの表紙画像↓通りです。

 



アーティストプロフ

Annie Lennox アニー・レノックス

 

スコットランド出身。80年代初頭から活躍するソウル系シンガーソングライター。

エリートなクラシック音楽教育を受け、ロンドン王立音楽アカデミーに入学、フルートを専攻する。

1970年代からバンド活動を経て、80年にはデイブ・スチュワートと共にエレクトロニックサウンドを駆使した男女ツインユニット、ユーリズミックスを結成。

83年『スウィート・ドリームス』が全米No1の大ヒットを記録、続く『ヒア・カムズ・ザ・レイン・アゲイン』『ゼア・マスト・ビー・アン・エンジェル』等の代表作を生みだし、パヴァロッティアレサ・フランクリンともデュエット作品をリリース。

そのソウルフルな歌声と共に、男装の麗人としてグラムロックばりのビジュアルで一世を風靡して世界的シンガーへと昇りつめるが、結婚・死産を経て、90年にユーリズミックスを解散。

出産で音楽活動を一時休止後、92年に音楽シーンへの復帰と同時にソロキャリアをスタート。

ユーリズミックスとしては99年にアルバム1枚だけ再結成、2022年には音楽の殿堂入りを果たした。

これまでユーリズミックス8枚、ソロ6枚のアルバムをリリース。

アメリカの音楽誌ローリングストーン誌による「歴史上最も偉大なシンガー100人」に選出されたほか、社会奉仕活動に熱心なことでも知られ、大英帝国勲章を授与された。

近年では様々なチャリティー活動の傍ら、月光ソナタのピアノ演奏姿を配信するなど、第一線から退いたマイペースな活動が垣間見られる。

 

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