ここ数週間ほど、新作の編曲作業に没頭していました。
ダンサーのエセニヤさんから依頼された組曲13曲中8作目です。
それにしても、創作に没頭する時の高揚感と熱量たるや、すごいもので。
寝食を忘れ、暖房をつけるのも忘れ、テレビやネットの存在さえ忘れて、世の中の悪意あるニュースから隔絶されたこの数週間^^
地球環境に優しく、ソーシャルデトックスの進んだ数週間でした♪
完成曲の納品を終えたので、これで年内残すところクリスマスイベントだけ(^ω^)
「お疲れさま」と自分を労(ねぎら)いつつ、久々にブログを開いて、今作にまつわる愉快でハッとするエピソードを綴っていきましょう。
川風が海風に変わる場所
愛をテーマにした13曲の物語で構成されたダンスショーを企画しているエセニヤさん。
今作のコンセプトは「Accepting & Letting Go」(受け入れること&手放すこと)
クリエイティブな人というのは芸術家肌なところがあって、その発言1つとっても直感的でハッと魅了させられます。
エセニヤさんもその類の方で、初夏のミーティングで8作目の具体的な楽曲イメージを尋ねたところ、こんな答えが返ってきました。
「夜明けの海に注ぎ込む大河みたいな音楽にしてください」
なんと豊かな発想力!
その言葉だけで僕の中に1枚の完成図が浮かび上がり、良い作品になることが約束されたも同然でした。
個人的にもグッドタイミングでした。
これまで早朝ウォーキングの定番コースは、近くの比治山(ひじやま)への登山でした。
が、今年は海風が恋しくなって一路、広島湾を目指すようになりまして。
夜明けの海に注ぎ込む川の光景なら、毎朝目にしています。
そんな僕のところに、今作のテーマが引き寄せられるなんて、愉快な偶然です。
ちょうど前回記事で話題にしましたね^^
東の空に燭光がのぞいた夜明け前、家を出て、京橋川沿いを南下。
広島湾岸まではるばる7キロを踏破するコース。
ちょうど左肩に朝陽が当たる頃、僕は川風が海風へと変わる地点に到達しています。
毎朝、海を目指して闊歩しながら、目に映るもの全てが楽曲アイディアの宝庫でした。
英語タイトルにご用心!
ほどなく作曲に入り『Rivers to Seas(仮)』と名付けました。
文字通り「川から海へ」という他意のないフレーズです。
ただ、英語というものはスラングを含め、人々に誤解を与えかねないとんでもないニュアンスが往々にして潜んでいるので、注意が必要です。
念のため「川から海へ」という表現を調べたところ、びっくりするようなことが判明。
なんとこれが、パレスチナ解放運動のスローガンだった!!!
は? なんでそんな意味になるの?って思いますよね^^;
国際政治的には「from the river to the sea」という表現が「ヨルダン川から地中海まで1つの国家が支配すべきだ」というニュアンスで使われ、解釈次第では「反ユダヤ主義とイスラエルを暴力で排除しよう」という意味になってしまうのだとか(!)
やれやれ、そんな物騒なタイトルを回避できてよかった^^;
もし川が涙の集まりだとしたら
楽曲にタイトルをつけることは、生まれてきた赤子に命名するのと同じ。
その子にふさわしい特別な名前をつけてあげたいものです。
では、今作にふさわしいタイトルは?
この組曲の主人公は、人生の中で出会う愛を通じて、幸福の絶頂から涙の谷間まで経験していきます。
折り返し地点となった7作目『Lost & Found』では、傷心を抱えたまま、水流に翻弄される笹舟のように小川を下ります。
やがて小川は大河へと至り、新しい陽が昇ろうとしている海に注ぎ、真実の受容+執着の手放しを経験するのが今作という流れです。
思いを巡らせました。
川から海に至るその地点で、視界に入ってくるものって何だろう?
ふと、早朝ウォーキングでの情景が蘇ります。
河口に至るたび、いつも胸に迫ってくる情景がありました。
河口の先に広がる広島湾の海が、まるで僕に向かって両腕を広げ、迎えてくれているような形状に見えるのです!
そんなことを思い出してるうち、ユニークな問いかけがほとばしりました。
もし川というものが、人々の流した涙の集まりだとしたら?
その悲しみを受け止めて抱きしめてくれるのは、両腕を広げて待っている、母なる海なんだ!
その両腕を広げた海を言葉にするとしたら、、、Arms of The Ocean!!!
これで決まり!
そういえば人間の体の中で、何かを受け入れたり手放す役目を担う部位は、両腕ですね。
まさに今作のコンセプトやイメージを象徴するタイトルでしょう。
お目当てのタイトルを発見した僕は、子供のように嬉しくなって、すぐエセニヤさんにコンタクトしたのでした^^
試されるプロデュース感度
11月に入り、編曲作業が本格化しました。
まず制作したのは、4分程度のデモバージョン。
絵画に例えれば、まだデッサンと下絵といった段階。
アレンジの方向性、音使い、テンポ感、楽曲展開など、依頼主に確認してもらうための工程で、自分のプロデュース感度が試される瞬間でもあり、息を飲んで彼女の反応を伺います^^;ドキドキ
一聴したエセニヤさんは、ヘッドホンを置くと言いました。
「この曲、もうこれで完成してると思いますよ。今までの曲で一番好きです」
満足そうに瞳を輝かせた彼女からの賛辞。
そう、等身大の自分がリアルに体現して、且つ完成図が見えていたら、それ以上何か付け足す必要がないほど完成してしまうのです!
迷いなく創れるし、楽曲と深い絆で繋がるからでしょう。
愛と慈悲のサウンドトラック
その後3つバージョンを重ね、最終的に5分の大作へと成長した『Arms of The Ocean』
エセニヤさんが様々なダンスで見せ場を作れるよう、3つのシーンで構成しました。
序盤は、夜明けの海に朝陽が昇る、神聖で荘厳なシーン。
繊細なシンセパッドが波模様を縁どり、光の粒子を宿したオブリガードが上空で揺らぎ、深いリバーブできらめくピアノが主旋律を奏で始めます。
ビートレスで動きを一切廃しつつ、耳に聞こえるか聞こえないかのところで実験的な音像を忍ばせます。
例えば、水面下でディストーションギターのギュイーンという音を低周波でリバース(=逆回転)させたり、夢見心地なパルス音を潜らせて音と音の狭間で無音になる瞬間だけ垣間見せたり。
中盤は、BPM110のライトなビートに先導され、緩やかに流れる大河が河口へ達して海と出会うシーン。
人魚の奏でるハープがキラリと顔を覗かせ、ドリーミーなオルガンが紗幕のように揺れ、タツノオトシゴのようなシンセベースがツンツンと縦ノリに弾みます^^
終盤は、愛と慈悲の大海原を威風堂堂と航海するシーン。
クライマックスにふさわしく、シンフォニックなフルオーケストラと、ソリッドでヘビーなビートの大競演。
そこに異国の香りのする音色を微量まぶして、水平線めがけて新たな愛の旅路につきます。
エセニヤさんがこの曲にどんな振付を施してくれるか、期待に胸膨らませておきましょう♪
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ちなみに冒頭画像は、瀬戸内海に沈む夕陽です。松山からの帰路、スーパージェット船内で撮りました^^