新顔の郵便配達員がきた。
まだ学生だろうか。
若いっていいな。
固まった肩、浮いた腰、たどたどしい口調。
物腰、ふるまい、話し方、すべてが一生懸命で初々しい。
つい昨日までの自分を見ているようでもあるし、
ハイハイしたての赤ん坊を見守る保護者気分でもある。
「ご利用ありがとうございました」
捺印を確認して伝票を剥ぎとり、退こうとする配達員。
玄関扉を開けたまま、立ち尽くす僕。
2秒の沈黙。
チャイムを押してから、彼にとって最も長い2秒だったに違いない。
全神経を研ぎ澄ませて、答えを求めたに相違ない。
うだるような夏空の下、突如訪れた沈黙が意味するものを。
彼は気づいた。
お届けものを手にしたまま、踵を返そうとしていたことに。
それは日常に転がり込んできた喜劇。
お互い笑い飛ばしてしまえば、シャボン玉のように消えてなくなるもの。
しかし、ここは黙するのが親切心。
慣れないやりとりで手一杯の彼には、笑う余裕なんてない。
少なくとも配達バイクに戻るまでの間、
しぼんでいく自尊心だけでなく、羞恥心まで抱えこむ羽目になったのだから。
「どうもご苦労様でした」
そう言って荷物を受け取ると、僕はゆっくり扉を閉めた。
ドンマイ。
恥をかかないために、
失態を犯さないために、
面目を失わないために、
大人たちは死に物狂いで生きている。
若いっていいな。
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