お待たせしました。
2回に分けての連載になった「夢の糧」後編を書き上げました。
まずは前編から読み返していきましょうか。
hidekimatsubara.hatenablog.com
フムフム、今回は波乱含みな展開なのかな?
では、ごゆっくりどうぞ。
大転身
僕のクラブイベントでバーテンとして彼が大活躍してからまだ日も浅い頃。
妹からの電話に、僕は耳を疑いました。
「彼、銀行を退職したんだって。 本気でバーテン目指すらしいよ。」
まず驚きが先でした。
続いて責任感に襲われました。
僕のオファーがきっかけで、彼の気持ちに火をつけてしまったことに。
それも彼ら夫婦が子供を授かろうという頃になって。
独身ならば、夢を食っても生きていけるでしょう。
夢破れたとしても、1人で食っていけるでしょう。
ところが父親になろうという人が、平成大不況のさなかに銀行員からバーテンダーへ転身するというのです。
ものすごい決断力ですよね。
そこまで思い切れる勇気には、同じ男として感服してしまいました。
さぞ周囲の猛反対を押し切ったんだろう。
と思いきや、そういうわけでもなさそうです。
彼女は相変わらずニコニコケラケラしていました。
「彼が夢を追いかけてることが、私うれしいの♪」
おかげで、自責の念も幾分和らぎました。
それどころか、僕の懸念をきれいさっぱり払拭させるすごい光景を目にしたのです。
自転車をこぐ太陽
「バーテンの資格とれたらしいよ」
「いろんなお店で修行を積んでるみたい」
妹から次々に続報がもたらされました。
そんなある昼下がりのこと。
窓辺から見るともなしに外の街路を眺めていた時です。
不意に僕の目をとらえて離さないものがありました。
太陽が自転車を漕ぐところ、見たことありますか?
僕はありませんでした。
その人を目にするまでは。
自転車をこぐその男性は、明らかに常人と違っていました。
輝くばかりのオーラを発しているのです。
よく見ると、それは繁華街へと自転車出勤する彼ではありませんか。
その全身は喜びに満ち溢れ、表情はキラキラ輝いていました。
あんな嬉しそうに自転車を漕いでいる成人男性、見たことがありません。
青空だった彼が、太陽まで宿していたのです。
もう無敵ですよね。
その後も、彼らの家と繁華街を結ぶちょうど中間地点にある我が家からは、自転車をこぐ太陽を幾度も目撃しました。
なにしろ太陽です!
エネルギーです!
フォースです!
サンシャインです!
ヒートウェイブです!
見ているこちらまで感化され、やる気と幸福感がフツフツと湧いてくるのですよ。
僕の母も、よく近くのスーパーで彼と出くわしていました。
「お店の買い出しみたい。すごくうれしそうに張り切ってたわよ。」
こうして僕の中の杞憂は跡形なく消え去りました。
太陽に照らされた影のように。
夢を叶える人は太陽を宿してる。
彼は夢と憧れに向かって、一直線に漕いでいました。
正夢と南風
それから何年たったことでしょう。
ごくたまに妹が帰郷してくれば、春風の彼女がニコニコ迎えに来て、一緒に外食したり。
でも彼については「元気にやってるよ」くらいしか耳にしていませんでした。
ある日、外食をしようと某有名ホテルへ入った時のことです。
彼がいました。
蝶ネクタイにベスト、片耳にはイヤホン。
フロア担当者数名に指示を出しては、次々に仕事をさばいてます。
そう、御察しの通り。
彼はそのホテルに入るバーからレストランまで飲食系全般を取り仕切るフロアマネージャーにまで大出世していたのです!
もともと英国人モデルのごとく端正な顔立ちと体つきで、無駄のない立ち振る舞いをする人でした。
それが見るもまぶしい洗練された大人の男性へと磨き抜かれていたのです。
その接客態度の誠実で優雅なこと。
喜びと祝福の再会になりました。
「こんなことになってるなんて夢にも思ってなかったから!」
後日、彼女と会うなり、開口一番、興奮気味に話す僕。
彼女はニコニコしながら聞いています。
「彼の夢が叶って本当によかったよ。すごく頑張ったんだねぇ。」
そう言ってお祝いとねぎらいの気持ちを伝えました。
すると彼女は嬉しそうにこう言ったのです。
「あの時ね、お兄ちゃんがバーテンを打診してくれたのが、すべての始まりなんだよ」
暖かい南風が僕の胸の中へ吹き込みました。
フワリと相手の存在価値を高めてくれる人がいます。
あぁ、彼女はまさに春風でした。
夢の素地
夢に向かって、彼はどれほど努力したことでしょう。
そして、そのプロセスをどれほど楽しんだことでしょう。
そう、夢を実現させる人は、逆境においてさえも楽しんでる節があります。
迫って来る高波に抗ったり無謀にも突き崩そうとしたりなどしません。
そのまま波に乗ってしまうのです。サーファーみたいに。
怖気づくどころか、スリルを楽しんでしまうのです。
そうやって障壁を含めたあらゆるものを動機づけとし、夢への糧に変えてしまうのです。
さらにもうひとつ、夢が実現する時には、それを支えてくれるキーパーソンがいます。
そう、ニコニコケラケラな彼女です。
つい最近、改めて彼女に訊いてみました。
彼が手堅い職業から大転身を図った当時、不安とか疑念はなかったのかどうか。
帰ってきた答えは、実にシンプルかつ明瞭でした。
「私ね、あぁ、この人は本当に夢を叶えてしまえる人なんだ!と信じて、疑ったこと一度もなかったの。」
そう思わせた彼もすごいけど、ひたむきに信じた彼女もすごいですね。
彼女だって、内助の功で夫と家庭生活を支え続けたにちがいありません。
でも、いくら話を聞いても苦労話らしい苦労話はおくびにも出しません。
むしろ彼の夢の立役者は僕であるかのように「おかげで一夜にして夢が叶いました」と言わんばかりに穏やかな顔をしているのです。
こんな度量ある妻に恵まれたら、風に乗って夫の夢が飛翔していくのも納得ですね!
陽だまりの詩
彼らとはなんという巡り合わせなのでしょう。
友達とも仲間ともなんだか違う、不思議で素敵な縁。
近づくでもなく、遠ざかるわけでもなく。
連絡を取り合うわけでもないのに、会うべきタイミングで偶然のように出会う。
春の陽だまりってそういうものかもしれない。
なくて寂しいわけでも、物足りないわけでもない。
けど、そこにあると頬が緩む。
固まった心をほぐしてくれる。
幸せと元気をおすそ分けしてくれる。
必ず会えると約束できるものではないけれど
季節が巡ればどこかで出会えるもの。
そんな関係が心地よくてうれしい。
時が来たら会える。
会えた時が、その時なんだ。
そんなあてのない、でも確かな予感を信じられる。
それが天からもたらされた「陽だまりの友」
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エピローグ: 変装
クマモン!? はたまた、彦ニャン!?
そんな風にワシャワシャと手を振る彼女と久しぶりの再会を果たしたその日、
僕はいつになくラフな格好でした。
ニット帽を目深にかぶり、全身カジュアルでダボダボなファッション。
よもやこれがヒデキマツバラだと気づく知人はいまい。
なんてちょっとした変装気分を味わっていたわけですよ。
なのに、彼女にはバレバレ(笑)
よく僕だとわかったものです。
「だってお兄ちゃんは、どんな格好しててもお兄ちゃんだからね」
ケラケラっと彼女が笑いました。
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ヒデキマツバラ LIVE 2018
Date: 2018-06-03(Sun) 14:30 Start
Place: エソール広島ホール
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