ヒデキマツバラの猫道Blog

音楽、マインドフルネス、それにユーモアを愛するネコ目線のキャットウォークブログ

ある図書館司書のお悩み 〜ナゾの図書館利用者の素性〜 - One for the Books -



 

本の海に溺れる

私は図書館司書。

砂時計を返すように、変わり映えしない日々を型通りに生きる。

 

休み明けの出勤ともなれば、さばききれない量の本が待ちかまえる。

返却本、他所の図書館からの回送本、そして貸出予約待機にある本、本、本!

 

尋常でないのは、休館日の続く正月休みや図書整理週間の後だ。

その凄まじい量ときたら。

本の海を泳がなければ受付カウンターまでたどり着けないほど。

 

なぜ、うちの図書館にはモーセがいないのだろう?

本の海を真っ二つにしてくれるモーセが。

 

ナゾの利用者

この仕事に愛想は無用。

金太郎飴のように、常時マユひとつ動かさない。

 

そんな私がアイツに目をつけたのは、確たる理由があった。

足繁(あししげ)く図書館を利用するアイツ。

いつも貸出限度10冊きっちり借りていくアイツ。

その貸出内容ときたら!

 

例えば今日はこんな具合である。

90億の神の御名(アーサー・C・クラーク/著)

ジーヴズの事件簿(P・Gウッドハウス/著)

古代メソポタミア全史(小林登志子/著)

女帝エカテリーナ(アンリ・トロワイア/著)

自叙伝 ジャン=リュック・ピカード(デイヴィッド・A・グッドマン/著)

本当の自分に出会えば、病気は消えていく(梯谷幸司/著)

エンジェル・ヒーリング いつでもあなたは天使に守られてる(ドリーン・バーチュー/著)

カフェごはん(山本ゆり/著)

ねこが見た話(たかどのほうこ/著)

ガスパール うみへいく(アン・グットマン/著)

 

SF、コメディー、歴史、伝記、心理学、スピリチュアル、レシピ本、童話に絵本まで。

なんと節操のないラインナップであろう。

 

仮説1:家族構成

2週間の貸出期間、この10冊をアイツが読破するというのか?

まさか。

 

おそらく、家族の分まで借りているのだろう。

アイツの奥さんや子供の分まで。

 

いや、仮説としては弱い。

あまりにジャンルがバラけすぎる。

 

となれば、三世代同居!

そうだ、そうに違いない。

 

世界史好きなおじいちゃん。

ホリスティック療法を勉強中のおばあちゃん。

SF小説に目のないアイツ。

コメディー小説に興じる奥さん。

動物好きなお子さん。

まだ字の読めない幼児。

 

うん、きっとアイツの家庭は6人世帯なのだ。

家族のリクエストに応じて、毎度6人分の本を借りている。

そう結論づけると、私は満足して仕事に戻ろうとした。

 

仮説2:職種

束の間、別の疑問が頭をもたげる。

そもそもアイツ、何者だろう?

 

第一に、神出鬼没な来館時間。

平日・休日関係なく、四六時中現れる。

朝一番に、日が高く昇る頃に、昼下がりに、夕刻に、閉館間際に。

 

第二に、地に足のつかない歩き方。

そのうち館内でスキップでも始めるのではあるまいか。

 

第三に、身なりから推察される職業。

断じて会社勤めのはずはない。

 

フリーター?

いや、自由気ままな来館時間の説明がつかない。

 

無職の引きこもり? 

いやいや、足繁くやってくるのだから、そもそも引きこもってない。

 

何か下調べが必要な職種だとすれば。

ライター? 研究家? はたまた作家の卵?

 

自問自答を繰り返すうち、いつしか黄昏が西の空を染めてゆく。

太陽の置き土産のように、ひときわ目につく宵の明星*。

(*金星のこと)

 

ふと、突飛な仮説に思い至った。

アイツ、もしや、地球人に化けた宇宙人!?

 

質問:出身地

だとしたら、符合がいく。

社会人離れした風貌から行動パターンまで。

それに雑多な読書癖も、地球文明の下調べだと理解したら納得だ。

そう言えば、UFOで地球に飛来する未来人は、弾むように歩くのが特徴らしい。

 

そんなアイツは、この地球社会のどのように読書に勤(いそ)しんでいるのだろう。

タバコをくゆらせながら童話を開き、紅茶片手に天使本?

電車に揺られながら料理レシピ集?

散歩道のベンチで、ノラネコの隣に腰掛けながらSF小説

 

今度アイツが来館した折、こう質問してみることだってできる。

「ところで、お生まれはどちらの星です?」

 

その時、アイツはどんな反応を示すだろう。

呆気にとられる?

非常識な私を訝(いぶか)る?

 

あるいは、澄まし顔で答えるかもしれない。

「えぇ、僕、金星生まれでシリウス星育ちのリラ星人なんです」

 

ならば、アイツは金星への里帰り中も、やはり読書に興じるのだろうか?

道中のUFO内で「リサとガスパール」の失敗に笑い転げ、金星の地底都市に到着したら親戚のおばちゃんに柳川丼のレシピでも伝授するのか?

 

いかん、ここは静粛たる図書館内。

笑いなど咬み殺せ。

 

愚かしいほど子供じみた想像力は禁物だ。

私は金太郎飴のような顔を崩すことなく、本日の業務を終えた。

 

エピローグ:愚痴

「お疲れ様でした、じゃあまた休み明けに」

同僚から声が掛かる。

「えぇ、良い休日を」

 

私は夜の闇へ抜け出すと、スマートフォンを手に取り、夜空を見上げた。

通話先は、母方のいとこ。

 

彼も地元のふるさとで図書館に勤務する身。

愚痴をこぼすには格好の相手だ。

「いいな、君の図書館にはモーセがいてくれて」

 

私は図書館司書。

砂時計を返すように、変わり映えしない日々を型通りに生きる。

 

そんな私の素性を、誰が知り得よう?

海王星で生まれ、地球で育った私が、プレアデス星人であることなど。

 

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