前編からの続きです。
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36時間前の決断
5月3日。
公演を2日後に控えた夕方。
8パートの弦楽オーケストラで編曲した「エニグマ変奏曲」
その仕上げに入るべく、自分の作ったサウンドに今一度、耳を傾けることしばし。
やがて聴き終えた僕は、重大な決断をしました。
「最初から全部作り直そう。。。」
理由は単純。
胸を打つものがなかったから。
こんなの、お客様に聞かせられない。
即時、ネットで海外の楽譜ショップにアクセス。
フルオーケストラのスコアをダウンロード。
無謀な賭けでした。
36時間後には会場入りしてリハーサルが始まるという時になっての作り直し。
自分が納得いく形に仕上がるまで(←ここが問題で^^;)果たしてどれくらい時間を要するのか、文字通りエニグマ(謎)で、見当もつきません。
新しいスコア譜には、弦楽、木管、金管を含めた全17パートからなる音塊が並んでいます。
それはまるで、突如、眼前に立ちはだかった山のようでした。
でも、決めたからには、やる!
最後の試練
「決めたからには、やる!」
この4ヶ月間、幾度となくその言葉が胸を去来しました。
最初は12月末。
病床に倒れたばかりの母がこう言った時です。
「これじゃ公演は無理だから、ホテルにキャンセル料30万円を払って取りやめにしなきゃ」
それはかえって僕のやる気を煽りました。
「やると決めたからにはやる! 自分が責任持って全部やりぬくから大丈夫!」
強引に押し切って、コンサートの決行を決断したのです。
そこから、ひたすらピンチに直面し通しでした。
チケット売り、資金調達、介護生活、人間関係etc
毎週のように、根幹を揺るがす新手のピンチが現れて、眼前に突きつけられます。
まるで「お前には無理だ。今すぐ手を引け」と言われているも同然。
運命を呪うこともできたし、自暴自棄になることもできたでしょう。
でも心の中にあったのはただ一つ。
「決めたからには、やる!」
石橋を叩いて渡る性格が一転「賽は投げられた」性格へ。
自我もプライドもかなぐり捨て、馬車馬のように動き尽くした4ヶ月。
それでも不思議なくらい気分は冷静でした。
なぜなら学びと気づきがもたらされたからです。
大いなることを学びました。
ピンチを受け入れ、解釈と視点を変えて動けば、チャンスに変わることを。
そして大いなることに気づきました。
自分がいかに未熟で弱いが故に、強くあれるか。
「神は鬼の面をかぶって現れる」
だからピンチを忌み嫌ってはなりません。
それは自分が強くなれるチャンスなのですから。
人間を偉大にさせるもの、それは成功ではなく、ピンチなんですね。
そして強い人間だからこそ、もっと強くなるべくしてピンチがやってくる。
打たれ強さこそは、自分の可能性をひたむきに信じられる強さでもあるのです。
「エニグマ変奏曲」の作り直しは、試練のフルコースの果てにあるデザートだ。
そう感じました。
これを乗り越えたら、ついにコンサートへの扉が開かれる。
そう信じました。
最後に立ちはだかった山が、自分の大好きな作品だった、というのも運命的です。
僕は最後の山に臨みました。
夜明けのシンフォニー
翌朝、どんな気持ちで夜明けを迎えたか、ご想像下さい。
それは勝利を告げるシンフォニーでした。
たった12時間で、僕は自分だけの「エニグマ変奏曲」を手にしたのです。
その中には4ヶ月間の労苦と闘争、そして歓喜が響いていました。
おそらく一晩中、天にいるエルガーとその妻キャロライン・アリスも、僕のすぐ傍で助けてくれたことでしょう。
我が愛しの大英帝国音楽
エニグマ変奏曲を序曲としたことで、舞台コンセプトには圧倒的な深みが出ました。
図らずも、イギリスを代表する歴史的アンセム2曲がオープニングを飾ることになったからです。
かたやイングランドを代表するクラシックの名曲「エニグマ変奏曲」
かたやスコットランドで歌い継がれてきた民謡「スカボロー・フェア」
ジャンルも成り立ちも全く異なる2曲。
英国人が愛し続けてきた2曲。
それが僕にとって「誕生」「音楽家デビュー」に続く第3の生、つまり「製作総責任者としてのデビュー」を飾ったのです。
それはまた、イギリス音楽をこよなく愛する自分ならではの、特別な幕開けともなったのでした。
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