ヒデキマツバラの猫道Blog

音楽、マインドフルネス、それにユーモアを愛するネコ目線のキャットウォークブログ

愛して信じることだけしか知らなかった日々へ帰ろう 〜オリジナル曲「スペアミントに抱かれて」にまつわる不思議な物語〜 

 

前回の投稿で書いた「スペアミントに抱かれて」

いつにない反響をいただきました。

 

hidekimatsubara.hatenablog.com

 

あなたの記憶の中に埋もれていた物語も見えてきましたか?

忘れ得ぬ誰か──旧友、愛する人、家族──との物語が。

 

今日は僕の物語について語ってまいりましょう。

スペアミント、つまりハッカ(薄荷)にまつわる物語を。

この歌を書くきっかけになった、忘れ得ぬエピソードの数々を。

 

 

カミナリじいさんの愛情

ハッカの香りで思い出すのは、母方の祖父。

このブログでも端々に登場するようになった、例のカミナリじいさんです。

 

大正生まれの典型的な日本男性だけあって、それはそれは厳しいおじいちゃんでした。

ちょっとしたことで嵐のような怒号が飛んできます。

僕が聞き分けのないことを言ったり、お行儀が悪かったりしたら、さぁ大変!

しつけの一環として、ビンタや生ヒザへの平手打ちを度々くらったものです。

(*注釈)現代では体罰=暴力とみなされ禁じられていますが、当時の子供は皆、折檻されながら育てられていくうちに、礼儀作法や忍耐力、人に迷惑をかけない協調性などを身につけていきました。

 

二世帯住宅で同居してたこともあり、孫の中では僕が一番鍛えられました。

それでもおじいちゃんのことが大好きだったのは、ひとえにその愛情深さからでしょう。

 

f:id:hidekimatsubara:20191025181824j:plain

カミナリじいさんに肩車されてご満悦なカミナリ小僧のボク^^

夕暮れになると、羽織にゲタ姿で散歩に出かけるおじいちゃんと手をつなぎ、一緒に一番星を探しながら遠くの公園まで歩いて行ったものです。

学問好きな僕には特に、漢字辞書から理科実験用具等、ありとあらゆるものを雨あられと贈ってくれました。

離れに僕たちの子供部屋を建ててくれたのもおじいちゃんだし、僕が天体観測にのめり込むなり大工を呼んできて屋根の上に観測所まで作らせたのもおじいちゃん。

大学で下宿アパートを探す際には、音大入学に反対していた父に代わり、師走も末の名古屋まで付き添ってくれたり。

帰郷するたび「よぉ帰ってきた」とお寿司パーティーを開いてくれ、はち切れそうなお腹を抱えながら眠りについたことか。

 

誰よりも厳しいおじいちゃんで、口を開けば憎まれ口を叩く皮肉屋だったけれど、好奇心旺盛で行動力とユーモアのある、人情に厚い人でした。

遠縁の親類縁者のことまで気にかけ、大盤振る舞いの食事会を度々開いたり、困った人を自宅に住まわせたり。

国税庁でもその面倒見の良さで数々の税理士から慕われ、当時の天皇陛下(現在の上皇陛下)から感謝状を授与される栄誉を与ったほど。

 

カミナリじいさんの褒め言葉

その暮らしぶりはごくごく質素だったけれど、おじいちゃんは芸術と教育にお金を惜しみませんでした。

なにしろ敗戦間もない頃、水だけで昼食をしのいでは、高価で一般人には手が出なかったクラシックのレコードを集めていたほどです。

僕の母が音楽家になったのも、我が家から芸術家を輩出したいというおじいちゃんの一念あってのこと。

 

そう、実はおじいちゃん自身が芸術家になりたかったのです。

でも当時、家を継ぐ者として、それは許されませんでした。

 

そんなおじいちゃんだから、僕がデビューすることになったあかつきには大変なハッスルぶりでした!

近所づきあいを毛嫌いしていたおじいちゃんが一転、ご近所さんやショップを巡っては僕のライブポスターを貼りまくること貼りまくること。

そのデビューライブがFMラジオで特番放送されることになるやいなや、今度はその宣伝シールをライブポスターの上に貼るべく、再び町中を奔走するおじいちゃん。

最強の宣伝マンでした^^

 

とはいえ、根っからの日本男児

たやすく人を褒めそやすことはしません。

 

普段は詩吟を弄するおじいちゃん。

その部屋から勢いあるダンスサウンドを効かせた僕のデビューCDが延々とリピートされていることが、唯一の褒め言葉でした。

 

「よくできておる」

そう言ってヒデキちゃんのCDを感心しながら聴いてたよ。

 

後年になっておばあちゃんからそんな話を聞きました。

おじいちゃんこそ世界一、僕の音楽を愛してくれた人だったのです。

 

カミナリじいさんのハッカ飴

おじいちゃんの部屋は、いつもハッカの香りに満ちていました。

お菓子をくれるのも、決まってハッカ飴。

 

「ほいほい、手を出してみんさい」

そう言ってうれしそうに羽織の懐からドロップ缶を出しては、僕が差し出す両手の上にコロンと一粒。

 

甘いフルーツキャンディーと違い、独特の苦味が尾を引くハッカ飴。

子供ながらに決して好みの味ではなかったけれど、「ほいほい」と言われてコロンと一粒もらうたび、妙にうれしかったのを覚えています。

 

スペアミントに抱かれた日のこと

おじいちゃんが亡くなって、まだ1〜2年くらいの頃だったと思います。

初夏の明るい陽射しにあふれた午後でした。

ちょうど新作舞台の音楽制作に取り組む初日。

僕がシンセサイザーのスイッチをオンにした瞬間の出来事でした。

 

突然、鼻をついたのは、ハッカの香り。

 

あれ、もしかして窓開けっぱなし?

いえ、どこも開いてません。

そのまま締め切った部屋の中で、曲作りを進めていきます。

 

そのうちハッカの香りはますます濃厚に広がっていきました。

それはまぎれもなく、おじいちゃんの部屋の匂い。

 

錯覚?

すぐに母を呼びました。

確かに母もハッカの香りがすると言います。

「不思議ねぇ。他の部屋は匂わないのに、あなたの部屋だけすごいハッカの匂い」

 

結局その日は、ハッカの香りに抱かれるように制作を進めました。

きっとおじいちゃんがそばで見守ってくれてるんだ。

そう信じながら。

 

名もなき道をたどった先に出会ったもの

そんなことがあった後、おじいちゃんにお礼を伝えるべくお墓参りに行きました。

忘れもしない2009年のお盆です。

 

それは県北にある山寺で、お寺の横丁から伸びる小さな山道をさらに登って行った先におじいちゃん達が眠っています。

前回ご紹介した画像が、その山道です。

 

f:id:hidekimatsubara:20191023091840j:plain

 

まだ昼前だというのに、それは暑い暑い日でした。

こぼれる汗をぬぐいながらお寺を通り抜け、山道へ差し掛かった時のこと。

 

いきなりすごい突風が巻き起こりました。

おじいちゃんのお墓周辺にそびえる何百本という大木が勢いよく揺れだします。

 

圧巻の光景でした。

何十メートルもある山々の樹々がみんな一心に全身を揺らしているのです。

 

僕は感激してしまいました。

まるで「よぉ帰ってきた」と両手を広げておじいちゃんが歓迎してくれているようで。

 

翌月のコンサート、僕は新しい曲を発表しました。

それが「スペアミントに抱かれて」です。

 

スペアミントに秘められた暗号


スペアミントに抱かれて ヒデキマツバラ SPEARMINT by Hideki Matsubara

 

スペアミントの香りが

呼び覚ます記憶

長い影法師 ふたつ

あの日の約束

 

汗ばむ頬 弾む吐息

一歩 踏み出すたび

あてもなくて

でも確かな予感 握りしめ

 

この名もなき道をたどって

君に会いに行こう

まだ愛することだけしか

知らなかった日々へ 帰ろう

 

スペアミントに抱かれて

寝息たてながら

君が紡ぐ物語

ページがほどける

 

芽吹く花は その想いを

そっと風に託す

時を超える旅人たち

遠い面影よ

 

この名もなき夢をたずさえ

君に会いに行こう

ただ信じることだけしか

知らなかった日々へ 帰ろう

 

いつもそこで待っている

両手を広げて

スペアミントが揺れてる

お帰りなさいと

 

作詞・作曲・編曲/ヒデキマツバラ

 

「長い影法師ふたつ」…一番星を探しながらおじいちゃんと散歩した夕暮れの日々のこと

「汗ばむ頬 弾む吐息」…山寺からお墓へと登っていく2009年夏の日のこと

「この名もなき道」…上記画像の道のこと

「芽吹く花は その想いを そっと風に託す」…芸術家になりたかったおじいちゃんがその意志を孫子に託したこと

「時を超える旅人」…この世を去ってスペアミントの香りになったおじいちゃんのこと

「この名もなき夢」…家を継ぐために芸術家になることを断念したおじいちゃん自身の夢

 

そして2009年夏、疾風に踊る樹々たちとともに僕を熱烈に歓迎してくれたおじいちゃんのことを、最後のフレーズに収めました。

「いつもそこで待っている 両手を広げて スペアミントが揺れてる お帰りなさいと」

 

名もなき夢が見せてくれた笑顔

僕は山里深い日本情緒が大好きです。

スペアミントに抱かれて」は日本人として生まれてきたからこそ書けた作品でした。

 

ところがシンセサイザーで曲作りする段になると、不思議なことが。

世界中のいろんな人たちの顔が目の前をよぎるのです。

黒人、白人、南国人、老いから若きまで、次から次へと何十人も。

 

その顔はどれも目の前にいるかのようにはっきり見えました。

みんな笑顔でした。

僕の作った作品を聴いて笑顔になっているのだと直観しました。

 

純日本的な感覚で作っている作品なのに、なんとも意外な取り合わせ。

でも第三の目で見えたこれらの人々とは、近い将来、巡り合えそうな予感がするのです。

それは芸術家になることを断念したおじいちゃんの夢が引き合わせてくれるのかもしれません。

 

お帰りなさい

大人になるということは、目を背けたくなるような現実の中で生き延びること。

夢は砕かれ、理想は地に堕ち、自分自身を押し殺しながら、けがれた高度先進社会の片隅で生き延びること。

 

大人社会で生きていくにつれ、そんな風にものの見方が偏って歪んでしまいます。

人を愛しても裏切られるだけ。

人を信じてもバカを見るだけ。

そうなれば、厭世的か退廃的か、あるいは打算的な生き方に溺れるようになるのも時間の問題でしょう。

 

スペアミントに抱かれて」を作ることによって、自分自身、精神が洗われました。

ひたすらに人を愛することしか知らなかった日々。

ただ無条件に相手を信じることしか知らなかった日々。

スペアミントの香りは、そんな日々の記憶をよみがえらせ、清らかに真っ直ぐに生きていく勇気を与えてくれたのです。

 

いつもサポートありがとうございます。
ブログランキングに参加しています。
下の【ミュージシャン】ボタンをポチッとお願いします。

にほんブログ村 音楽ブログ ミュージシャンへ
にほんブログ村 

 

DJヒデキマツバラ presents カクテルパーティー
SCORPIO RISING
スコーピオライジング〜

f:id:hidekimatsubara:20191021202449p:plain

【Date】2019-11-17(Sun)14:00 - 16:00
【Place】Miminowa Music Studio
【Admission】 ¥2750 (with Special Cocktails & Sweets)
【Performance】DJヒデキマツバラ、MAYUMI、コンスタンツェ、SAM
【Reservation】DJヒデくん 又は info@miminowa.com までご連絡ください(11/12予約〆切)