少年時代の日を宿した黄金山 (おうごんざん)
そこへ再び登ることになったのは、この2月。
母を亡くしてまだ日の浅い立春だった。
前回からの続きです。
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芯まで温まる食べ物
「これからドライブいかない?」
レッスンが終わった頃合いを見計らって届いたのは、Tちゃんからのメッセージ。
二つ返事でOKした。
「まず腹ごしらえからね」
迎えに来てくれたTちゃん曰く、
「カルチャーショック起こすような穴場へ連れてったげる」
海を目指して一路南下、どんどんひと気のない寂しい場所へと車を走らすTちゃん。
果たしてこんなところに外食屋さんがあるのだろうか?
「ここ」
Tちゃんが指差した先にあったもの。
それは、ソバとうどんの自販機(!)
ぎゃふんときた(笑)
さすがTちゃん、よもや21世紀を20年近く過ぎてなおこんなものにお目にかかろうとは^^
県内ではそこしかない貴重な自販機なのだとか。
こうして初めてのソバ自販機体験。
まるで放課後に内緒で買い食いする悪ガキ気分で車から降りる。
寒空に佇む自販機。
待つこと数十秒。
湯気の上がったお椀。
かき揚げや七味までついて気が利いてる。
車に戻り、ふーふー麺をすする僕ら。
これが美味いんだ!
本当においしい食事って、食材や味つけじゃない。
本当においしい食事とは、それを共にしてくれる人がいることなんだ。
母との最後の晩餐以来、ひとりきりの夕食がどんなに味気ないか思い知った。
真の幸せって、当たり前のようにそこに誰かいてくれることだったんだ!
Tちゃんの真心に、僕は芯までじんわりあったまった。
夜の暗い車中、ソバの湯気に紛れて、僕はこっそり涙をぬぐった。
星屑の絨毯
Tちゃんが次に車を走らせた先、それが黄金山だった。
小六のあの日味わったロードムービーから一転。
夜道の黄金山は、まるでドイツの黒い森を思わせる異界だ。
夜が真っ暗闇であることを忘れてしまった都会人の目にはそう映る。
やがて異界を越えた先で、我が目を見張った。
氷点近い外気の中に降り立つ。
そこに広がっていたのは、360度ぐるりと壮大な夜景のパノラマ。
街はまるで星屑の絨毯を敷き詰めたように輝いていた。
Tちゃんが口を開く。
「この世界にはまだこんなに美しいものがあること、見せてあげたくて」
それで気がついた。
どうやらTちゃんは、愛する母の急死を苦にして僕が自殺するんじゃないかと危惧していたらしい。
幸い、僕はそこまで思いつめてなかった。
けれどここで正直に告白してしまうと、交差点で信号待ちすることがある度に、あのトラックが僕めがけて突っ込んで来てくれたらラクになれるのに、なんて考えが度々心をよぎったのは事実だ。
展望台でTちゃんは1本の枯れ木を指し示した。
「この桜の木、父さんが入院する前、一緒に触れた思い出の木なんよ」
Tちゃんのお父さんは入院して3ヶ月経たぬうちに、手の施しようもなく亡くなったのだとか。
「亡くなって1年目はツラいよ。季節が巡るごとに思い出がよみがえってくるから」
そう言ってTちゃんが続ける。
「でも、こんな美しい世界に生きてること、忘れんといて」
親を亡くした者同士、わかりあえることがある。
響き合うものがある。
だからTちゃんは今日の風変わりなツアーに連れ出してくれたんだ。
そしてこの大事な思い出の場所で、僕に「生きろ」って教えてくれた。
二度目の黄金山は泣けた。
Tちゃんの思いやり深い優しさに。
その晩、僕が流した涙たちは、星屑の絨毯が敷かれた地上世界へとしたたり落ち、キラリとまたたいた。
(つづく)
松原リディア美江を偲ぶ会
HEAVEN SCENT ─天香─
【Date】2020-04-19(Sun)14:00 - 15:50
【Place】Miminowa Music Studio
【Admission】 ¥2750 (with Mocktail & Spring Sweets)
【Performance】ヒデキマツバラ、MAYUMI、SAM
【Reservation】ご予約はTwitter等でご連絡ください(2020/04/13ご予約〆切)
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