人生には「忘れ得ぬ人」がいます。
年齢や立場、境遇も違い、顔を合わせる機会さえ少ないのに、生涯忘れることのない大切な腹心の友が。
今日はそんなお話です。
生誕77年記念の恩返し
先日19日は、僕の母が生きていれば、77歳のバースデイを迎えた日でした。
美美の環スタジオ創立者であり、僕の音楽の師でもあった母、リディア美江。
「リディア美江先生のために、何か恩返しをしたい」
そう言ってこの度、母に捧げる演奏動画をYouTubeで公開してくれたのが、母の愛弟子だったSAMさんです。
イギリスのボーイソプラノユニット、リベラの『彼方の光』をカバーしたSAMさん。
難しい譜面なので、1年がかりでエレクトーンの練習に励んできたのだとか!
YouTubeと連動して、ご自身のブログでも、恩師である母のことを取り上げてくれました。
半年だけの師弟関係
師弟愛にあふれたメモリアル企画。
胸にジーンときますね。
ここまで恩師想いなのだから、さぞかし両者は長いご縁で師弟関係を育まれてきたのだろう。
そう思われる読者も多いでしょう。
ところが、さにあらず。
母とSAMさんの縁は、わずか半年でした。
そんな短期間で、何がSAMさんをここまで恩師想いにさせたのでしょう?
そんな短期間で、母は何をSAMさんの心に遺したのでしょう?
生き別れるために出会う
SAMさんが美美の環スタジオに入会してきたのは、母が病に倒れる半年前のことでした。
月1回のグループレッスン「Happy Sundays」を通じて、SAMさんは母の真摯な生き方と経験豊かな教えに共感します。
そして、ステージ出演、ツアー参加、打ち上げ等、母が声をかけたイベント全てに皆勤賞だったSAMさん。
そんな矢先、ふたりの師弟関係は、突如終わりを告げられます。
闘病生活の末、母はレッスン現場に復帰することなく、天に召されたのです。
やっと恩師と呼べる人と知り会い、その教えを請い始めた矢先の別れ。
なんと切ない縁でしょう。
まるで、生き別れるために出会ったようではありませんか。
ところが不思議なことに、その縁は、最期の時になって再び両者を結びつけたのでした。
1%未満の縁が引き寄せ合った最期
早朝の救急救命室でした。
そこで、母の最期に立ち会った者が3人います。
僕と叔父、そしてSAMさんでした。
母は急逝でした。
そのため、他の親族や愛弟子はもちろん、東京暮らしの妹ですら最期を共にすることが叶いませんでした。
そんな中、SAMさんだけは再び母と対面できたのです。
それは、偶然にしては出来すぎていました。
この近辺で救急搬送されるとしたら、少なくとも4〜5件の大病院があります。
その4〜5件のうち、母が救急車で運び込まれた先が、SAMさんの勤務先だったのですから。
そんなわけで、僕から関係者へ訃報を一斉通知するやいなや、SAMさんは持ち場を離れて救急救命室に駆け込んできたのでした。
ふたりの縁は、75年でたった半年。
つまり母の全生涯のうち、SAMさんと共有したのは1000分の6ほど。
!%にも満たない、わずか0.6%の縁。
そんな縁が、生涯の最後を飾る。
事実は小説より奇なり。
まるで人生が時折見せる不思議な魔法のようでした。
リディア美江の日記帳より
半年だけの師弟関係で、両者が会う機会はとても限られていました。
その代わり、手紙好きな母とSAMさんは、半年で10数通もやりとりしたのだと言います。
なんと、10日に1度は手紙を交わしていたわけですね!
それらの手紙を全て、SAMさんは僕に見せてくれました。
母お得意の手書きイラストが添えられた手紙の数々。
そこには、母の感じた喜びや感動がありありと綴られていました。
そんなことがあって、改めて母の日記に目を通した僕は、ある発見をしました。
そこには、SAMさんのことがこんな風に書いてあったのです。
彼女は、いろんなことに喜びや感動を見出せる素敵な人
あぁ、そうだったのか。
何がふたりをつないでいたのかわかりました。
母とSAMさんは「人生から喜びや感動を見出す」という共通点でつながっていたのです。
母が息を引き取った時に必要としたもの
束の間の縁でした。
けれど、太くて深いつながりのある縁でした。
そうした縁は、相手を失ってもなお、喜びと感動をもたらしてくれる。
そして、いかなるものよりも人生の価値を高めてくれる。
そんな風に僕には感じられます。
闘病中の母の姿は、誰にも見せられないほど、辛く痛ましいものでした。
だからこそ母は、息を引き取った最期の瞬間に、喜びや感動を分かち合える人を必要として、SAMさんのような人を引き寄せたのかも知れません。
あれからこの3年、母の命日や誕生日などの折に触れて、SAMさんは恩師リディア美江を追悼してきました。
そしてこの度は、多くの人たちの耳や目に触れるネット上で、形として残るメモリアルを展開してくれました。
母の息子として大変光栄に思います。
きっと天国まで届いていることでしょう。
SAMさん、どうもありがとう。
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